日韓関係悪化のきっかけとなった徴用工問題で、韓国内の市民団体が訴訟騒ぎの内ゲバ状態に陥っている。
徴用工問題のシンボルとして韓国各地に建てられている強制徴用された労働者の銅像が、じつは日本人労働者をモデルにしているではないかという疑惑が出ているのだ。
疑惑を指摘した市民団体に対し、銅像をつくった彫刻家側は「名誉棄損だ」と激怒。巨額の損害賠償を要求する裁判を起こす騒ぎに発展している。いったい何が問題なのか。韓国紙で読み解くと――。
慰安婦「少女像」も作った彫刻家夫妻の問題作
彫刻家側に訴えられた団体メンバーは2019年12月2日、ソウル市内で記者会見を開いた。その模様を中央日報(2019年12月3日付)「『歴史歪曲反日銅像設置中断せよ』...反日銅像真実糾明共同対策委員会が記者会見」がこう伝える。
「『日帝徴用労働者像のモデルは日本人』と話して銅像を作った作家に訴訟を起こされた人たちが『韓国民の名誉を失墜させる歴史歪曲反日銅像設置を中断せよ』と要求した」
記者会見に現れたのは、人権派市民団体の韓国人権ニュースや地域市民連帯の代表、民間経済研究所の研究員、徴用工銅像を市の許可なく勝手に設置されたとする大田(テジョン)市の市議会議員ら5人のメンバーだ。
中央日報が続ける。
「銅像の作家であるキム・ソギョン、キム・ウンソン夫妻が最近、彼らが『日本の労務者をモデルにして徴用労働者像を作った』という虚偽事実を流布し名誉を傷つけられたとし、彼らひとり一人に6000万ウォン(約550万円)ずつ支払うよう求める損害賠償請求訴訟を起こした。そのため、彼らは対抗策として共同対策委員会を作った。共同対策委員会には『慰安婦と労務動員労働者銅像設置に反対する会』『反日民族主義に反対する会』『韓国近現代史研究会』『国史教科書研究所』などの団体も参加した」
いずれも過激な反日ナショナリズムに反対する保守系といわれる団体だ。
ちなみに彼らを訴えた彫刻家のキム・ソギョン、キム・ウンソン夫妻は、徴用工銅像だけでなく、慰安婦の「少女像」を作った民衆美術運動家としても知られる。今夏、「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展」に展示されて物議をかもした「少女像」は、キム夫妻が作成したものだ。
北海道の新聞が告発 「労働者虐待死」の写真が元か?
そもそもこの騒ぎはどうして起こったのか――。2019年3月、朝鮮日報などの韓国メディアが衝撃的なニュースを流した。韓国で小学校6年生の歴史教科書などに掲載されている、日本の朝鮮半島統治時代の徴用された朝鮮人労働者の写真が、じつは日本人労働者の写真ではないか、と報じたのだ。写真は上半身が裸で、あばら骨が一本一本浮き出てわかるほど無残にやせこけている。「強制労役に動員されるわが民族」という説明がついている。
しかし、この写真は1926年9月に、北海道にあった旭川新聞が道路建設現場での労働者虐待致死事件を報じた際のものだという疑いがあるという。旭川新聞は「惨酷極まる土工の虐待 まさに戦慄覚えしむ被害者の実話」という見出しで、強制労働に狩り出されて餓死者まで出る日本人労働者たちの悲惨な実態を告発した。写真には餓死寸前の労働者数人が写っており、そのうちの1人が韓国の教科書の写真にそっくりだというわけだ。
そして、キム夫妻に訴えられた5人は、「キム夫妻はこの日本人の写真をもとに徴用工像を作った」と批判したのだ。
しかし、中央日報によると、キム夫妻はこう反論したのだった。
「徴用に対する悩みと歴史が労働者像に込められなければならなかったため、私たちは特定人物をモデルにせずに、私たちが構想したイメージで作った。労働者像のあちこちにも作家の想像的表現を込めた」
つまり、あくまで作家として想像力の産物であり、教科書などの写真は参考にしていないというのだ。
教科書の徴用工写真に黒いシールを貼る韓国政府
中央日報は、
「共同対策委員会は声明を出し、『作家は労働者像が想像力の結果というが、作家の想像力は政府の過去の公式記録に影響を受けざるを得ない。韓国国民ならばだれでも徴用について教科書の写真などを記憶できる。(日本人労働者という)事実が知らされると、韓国政府は今年小学校6年生の教科書に出ているこの日本人徴用者の写真にシールを貼って使い始めた』とした」
と伝え、こう結んでいる。
「竜山(ヨンサン)駅広場労働者像の石碑には狭い坑道で斜めにうつ伏せになった姿勢で石炭を掘る坑夫の写真が掲示されており、この写真も朝鮮人徴用工の代表的なイメージになっているが、彼らは『実際は日本人鉱夫と判明した』と話した。共同対策委員会は『芸術作品だからと聖域はありえない。議論の余地がある歴史的銅像に対しては、考証と関連ファクト(事実)は明確に検証されなければならない』と話した」
まさに正論といえるだろう。
(福田和郎)