神保町駅A5出口から徒歩2分、レトロな雰囲気漂う高瀬ビルの階段を登って3階の右奥に、「くだん書房」はある。決して広くはないスペースは、とにかく少女漫画でいっぱいである。
四角い部屋の3辺、その中に2列の書棚が並び、棚の間隔は一人分ほどのスペースだ。棚から溢れた本は床に高く積まれる。書店というより、書庫に近い雰囲気。迫力こそあれ、重苦しくないのは、並ぶ本のほとんどに、ニッコリ笑う少年や少女が描かれているからだと気づく。
エンジニアから古書店の店主へ
「くだん書房」は、少女漫画や漫画雑誌をメインに取り扱う古書店。店主の藤下真湖さんは2002年2月にこの店を立ち上げた。もとはエンジニアとして会社勤めをしていた。古書好きが高じて一念発起、神保町に店を構える。初めは民俗学や歴史ものなどを中心に展開していたが、古書店街の神保町の中で専門性を高めるために、少女漫画を商品の主軸にしたという。
取り扱う商品は1960~80年代の少女向けの雑誌やコミックス(またその付録)、70~90年代の同人誌。商品の情報はすべてデータベース化され、目録としてホームページで見ることができるのが、最大の特徴だ。人気の高い商品は、情報をアップデイトした途端に売れてしまうこともあるという。お客さんの7割が女性で、子どもの頃に読んでいた作品を求めてやって来る。
藤下さん曰く、「単行本にならなかった作品や、雑誌のカラーページになっているもの、作品が新連載で掲載された号などを、ピンポイントで探して来られる人が多い。イタリアから、ある作家の作品を求めてやってきたお客さんもいた」その熱意には驚いた。
「サラリーマン時代よりも、自由に工夫できる今の仕事は性に合っている。お客さんと接することの楽しさも知った」と、藤下さんは語る。
「ここ(店内)に入りきらない商品は自宅に保管してあるので、家は倉庫のような状態だ」
と笑う。
レジの奥にはちょうど藤下さんがぴったりパズルのピースのようにはまるスペースがある。販売から経営まで一人でこなす藤下さんにとってこの場所は、職場であり書斎である。秘密基地にお邪魔したようなワクワク感を覚えた。
漫画への愛情が人との出会いを生む
オススメの本として奥から出してくれたのは「由紀夫くん」(池田理代子)と「湖の少女」(ふるやムツ子:古谷三敏)の2冊だ。「由紀夫くん」は「ベルサイユの薔薇」で知られる池田理代子先生のデビュー作。今でも人気が高いという。「湖の少女」はストーリーが面白いと話す。どちらも、悩みながら選んでくれた。
「売れ行きってのも難しいなぁ」と出してくれたのは1964年の「週刊少女フレンド」は外国人の少女のカラー写真が表紙を飾る。「雑誌の中ではこのあたりのフレンドはよく売れる。懐かしむお客さんが多い」そうだ。
藤下さん自身も漫画家と交流が深く、同人誌の印刷販売を請負ったり、原稿を寄稿し作品に参加したりと、忙しい合間を縫ってアクティブに活動されている。これまで、くだん書房は漫画関係のさまざまなイベントを主催してきた。
古書販売の未来を楽観視しているわけではないが、藤下さんの考えは前向きだ。「本は並べるだけで売れるわけではない。骨董品的な意味を持った古書販売と合わせて、今後は同人誌や原画の販売など広げていきたいと考えている」と語る。
「昔の作品はもちろん馴染み深いが、同人活動に参加することで、今の若い作家の作品などから刺激を受ける。くだん書房を支えてくれるのはそういった場での『出会い』や『縁』が大きい。これからも大事にして、工夫してなんとかやっていきたい」と、笑った。(なかざわ とも)
◆オススメのイベント情報◆
●「大青林工藝舎祭」
2019年11月16日~12月20日。神保町ブックカフェ二十世紀で、青林工藝舎の書籍やグッズを展示販売する。
●「漫画の手帖40周年展」
2020年1月9日~23日。東京古書会館2階 情報コーナーで40年以上続く同人誌「漫画の手帖」のほぼすべての刊行物を展示する。
※ その他、さまざまな情報が「くだん書房」のツイッターで随時発信しています。