朝夕のラッシュ時、満員電車の中はスマートフォンやゲーム機に熱中する人が大半で、居眠りをする人も少なくない。なかにはニュースサイトで情報収集、あるは語学学習など仕事のためにスマホやタブレットを手にしている人もいるだろう。だが、こうしたITを利用した通勤電車の過ごし方は、脳のメカニズムに反しており、知らず知らずのうちに疲れやすくなって、仕事のためには逆効果なのだそうだ。
「脳にいい! 通勤電車の乗り方 脳内科医がズバリ解説」(加藤俊徳著)交通新聞社
スマホやゲーム機はストレスのもと
居心地が決していいとはいえない通勤時の満員電車。息苦しさやストレスを軽減しようとスマホやゲーム機に没頭する人が多いはずだ。ところが、そうした行為が逆にストレスを生み、気が付かないうち心身に疲労を蓄積させているという。
本書『脳にいい! 通勤電車の乗り方 脳内科医がズバリ解説』(交通新聞社)によれば、ラッシュ時の通勤電車は、居住性には難があるものの、脳にとっては刺激が多く、絶好の脳トレの場。スマホやゲーム機でストレスを増すよりも、脳の能力を増す機会に利用しようと提案する。
著者の脳内科医、加藤俊徳さんは、MRI(磁気共鳴画像)検査を使って「胎児から100歳の高齢者まで」1万人を超える脳を診断・治療し、脳には「個性」があることを発見。その個性の特徴に応じた鍛え方をすれば、何歳になっても脳を成長させることができるとして独特のトレーニング法を開発したことでしられる。2013年に都内でクリニックを開設、ビジネス脳力診断や発達障害、認知症の診断・治療などを行っている。
電車内でのスマホやゲーム機は、出勤時にとくによくないようだ。小さい画面に視線を集中させるため眼球運動がほとんどなく、その分、脳の同じ機能だけを使い続けることになる。そのため脳が疲弊し、身体に「疲れ」となって表れる。また、眼球の動きを支える筋肉もスマホなどを見続けることで力が衰え、会社に着いていざ始業というときには相当くたびれた状態になっている。また、電車で眠っていては、出社後すぐに仕事を始めようにも短時間での脳の起動は不可能。脳が覚醒し活発に働き始めるまでには、起床後最低でも2時間かかるという。
「脳番地」を知ろう
著者は、スマホやゲーム機への没頭など、通勤電車内でストレスになるような脳の使い方を「通勤ストレス脳」と呼ぶ。それは「正しい脳の鍛え方」により解消でき、脳の成長をも促すことになるのだが、通勤電車はそのトレーニングの絶好の場でもあるのだ。
トレーニングのポイントとなるのは「脳番地」という考え方。脳は同じような働きをしている細胞同士が集まり、集団を形作っており、それを分かりやすくするために、集団を脳番地と名付けたもの。脳の神経細胞は1000億を超え、脳番地は右脳と左脳に60ずつあるが、わかりやすく大きく区分すると機能別に、以下の8つになるという。
(1)運動系脳番地(2)記憶系脳番地(3)感情系脳番地(4)伝達系脳番地
(5)理解系脳番地(6)視覚系脳番地(7)聴覚系脳番地(8)思考系脳番地
これら8つの脳番地は、どの人も共通して一律ではなく、使う頻度などにより発達、成長の具合は異なる。脳番地同士はつながっているので、弱いところは強い番地を使って鍛えることができるので、トレーニングで、そのつながりを太くすることで脳全体の底上げができるようになる。本書では、33通りの脳番地トレーニングが具体的に示されている。
電車内では、立っている場所や座席を詰めたり譲ったりする動きが求められ、絶え間なく周囲を観察することが必要だ。スマホに熱中していては、それもかなわないが...。その観察と行動により、脳内で8つの番地が連動して刺激を受ける。自然と弱いところを補うためにつながりが強固になってくるわけだ。年度変わりの4月には、地方から出て来て都会暮らしを始めた人たちが、通勤シーンで「目が回るよう」と表現することがあるが、脳が刺激を受け忙しく働いているからなのだろう。
紹介されているトレーニングの一つに「人にぶつからないよう乗り降りする」というのがある。「肩や荷物も当たらないよう乗り降りする。運動系脳番地、視覚系脳番地、思考系脳番地が特に活性化される。すし詰め状態の車内では、周りに配慮するだけで十分。感情系脳番地が活性化される」――。ビジネスでの考え方の柔軟性を養うことができるという。
「脳にいい! 通勤電車の乗り方 脳内科医がズバリ解説」
加藤俊徳著
交通新聞社
税別800円