広告では7万円の包茎手術がなんと130万円! 無料診断のつもりで行ったのに、その場で320万円の植毛手術の契約をさせられた......。
包茎や薄毛など男性特有の悩みにつけこんだ美容医療で、とんでもない額の被害に遭う若い男性があとを絶たないことから、国民生活センターが2019年11月21日、「男性の医療トラブルに注意を!」という調査報告を発表。警鐘を鳴らしている。
無料相談なのに「今日手術しないと大変なことになる!」
国民生活センターによると、2018年度に全国の消費生活センターに寄せられた美容医療サービスによるトラブルの相談は、男女合わせて1978件。そのうち男性は440件(22%)で、過去5年間ずっと400件前後で推移している。
調査をまとめた国民生活センター情報管理課の神辺寛之さんは、こう語る。
「被害にあう男性の70%が20代~30代の若い人です。女性の被害と違うのは、まず被害金額が大きいこと。100万円以上の被害にあった人が32%と女性(16%)の2倍です。これは、植毛や薄毛治療が1年くらいの長期間必要で、高額になるケースが多いから。もう一つの違いは、女性はたとえば整形の結果に満足できないといった、施術の中身のトラブルが多いですが、男性の場合は、思いもよらない高額の契約を結ばされたなど、治療・施術以前の段階のトラブルが多いことです。これは、女性が雑誌などで美容医療情報をよく調べているのに比べ、男性はよく調べないで、いきなりクリニックに行くからですね」
いきなりクリニックに行ってひどい目に遭うのは、こんなケースだ。
【事例1】「包茎手術が7万円」の広告につられて行くと130万円とられた。
7万円で包茎手術というインターネット広告を見て、無料カウンセリングを受けるつもりでクリニックに出向いた。カウンセリングの際、医師が患部を診察したところ、「今日施術しないと子どもができづらくなる。広告の施術だと手術痕が目立つし、術後にひどい腫れが出る」などと言われ、包茎手術にさまざまな美容形成治療のオプションを付加する130万円の契約を勧められた。
断って帰ろうとしたが、過去に別のクリニックで治療した人の失敗例の写真を見せられ、「写真のようにはなりたくないでしょ」「今日、手術をしないと後の事は知りませんから」などと不安をあおられ、頭が真っ白になった。手術承諾書にサインし、その日のうちに手術した。クリニックに焦らされ、正常な判断ができないままに高額契約をしたので施術代金を減額してほしい。(2019年8月、20歳代)
神辺さんはこう説明する。
「これはかなり悪質なケースです。失敗写真を見せたりして不安な気持ちをあおって即日手術を急がしています。美容医療サービスなどの自由診療に関しては、即日手術の必要性が医学上認められない場合には強要してはならないと厚生労働省が通達を出しています。しかも、即日手術をする場合は、丁寧に説明して熟慮の時間を与えなければならないと求めています。もし、クリニックを訪れた時に即術手術を勧められたら、絶対に怪しいと思って、すぐに応じないようにしましょう」
医師資格のないカウンセラーが治療行為
最近、男性の美容医療で増えているのが、薄毛治療や植毛手術だ。また、顔のひげを剃ること自体きらう男性が増えて、ツルツルに脱毛する施術も人気を集めている。だから、こんな被害のケースが出ている。
【事例2】薄毛治療で頭皮の出血、腫れがひどくなったが、医師から十分な説明がなかった。
毛髪再生医療を行うクリニックで、医師ではない担当者からカウンセリングを受けた。担当者が頭部を見て、「月1回のペースで全6回注射する。後頭部も薄毛になりつつあるので治療面積が一番広いコースがよい。サプリメントや内服薬、頭皮用スプレーを併用しないと1年後に元に戻るかもしれない」と言うので、1年分のサプリメントなどと治療費を合わせた160万円のコースを申し込んだ。
その後、医師の診察になったが、頭皮を見て「4回目くらいでよくなる。整髪料は使わないように」と言われただけで、治療内容やリスクの説明がないまま、頭皮約30か所に注射をして施術が終わった。術後は頭皮の出血、腫れがひどくなった。医師から十分な説明がなかったことに疑問を抱き、解約を申し出ると、「解約には応じるが、サプリメント等の代金60万円と1回分の施術代金15万円の75万円を支払ってもらう」と言われた。納得できない。(2018年5月、20歳代)
【事例3】植毛手術のリスクや副作用などの説明が不十分で納得できない。
インターネットで知った植毛手術を行うクリニックに行って、無料カウンセリングを受けた。その際に自身の後頭部等から毛髪を移植する自家植毛で3000株程度を移植する施術を提案され、「副作用や疾患はほぼない。頭部の後ろから株分けして植毛するが、頭部の後ろからとったことはわからないし、薄くもならない」などと説明された。
費用は320万円と言われたが、承諾して手付金として20万円を支払った。手術は後日行うことになったが、本当に手術を受けていいのか心配になり、自家植毛について調べると、皮膚が腫れるなどの副作用があることを知った。クリニックの説明が不十分だったので解約したい。(2019年6月、30歳代)
【事例4】ひげの脱毛医療で、必要のない化粧水を契約させられた。
美容外科で、6か月6回で3万円のひげ脱毛コースを契約した。契約時に必要なオプションとして3万円のアフターケア用の化粧水を勧められ、一緒に契約して合計約6万円を支払った。しかし後で確認したところ、化粧水を契約しなくてもひげ脱毛は契約できることがわかったので、化粧水の返品を申し出たが、一度購入したら返品できないと言われた。説明と違っているので返金してもらいたい。(2019年3月、20歳代)
広告をうのみにしないで公的機関の情報を参考に
神辺さんは、
「これらのケースに共通しているのは、クリニック側の説明が非常に不十分だということです。美容医療サービスは自由診療で高額になりますから、施術内容やその効果、費用、解約条件などの契約内容、また想定されるリスクや副作用については、施術前に必ず丁寧に説明しなければならないことになっています。特に、事例2で問題なのは、医師ではない人物がカウンセリングと称して病状診断や治療方針の決定などの医療行為を行っていることです。医師法違反の疑いがあります。美容クリニックでは全員白衣を着ているところが多いですから、無資格の人物が医療行為をやってもわかりづらい面があります」
と説明。
さらに神辺さんは、特に重要なことを、こう強調した。
「個別のクリニック名の公表は控えますが、これまで10件以上のトラブル相談がある問題のある美容クリニックが、全国で約30もあります。男性はインターネットで美容クリニックを探す場合、費用が安いところなど、いい情報しか調べない傾向がありますが、クリニックの広告をうのみにしないで、施術のリスクや高額の治療費を請求される危険性についても事前にしっかり調べてほしいと思います。厚生労働省や消費者庁、国民生活センターなど公的機関が出す注意喚起情報なども併せて調べて、どういったリスクがあるのかを把握しておくことがとても大事です」
(福田和郎)
※ 相談には、下記の公的機関のサイトを参考に......
(1) 厚生労働省
「確認してください!美容医療の施術を受ける前にもう一度!」
(2) 消費者庁
「美容医療を受ける前に確認したい事項と相談窓口について」
「美容医療サービスを受けるに当たっての確認ポイント~美しくなるはずが予想外の腫れ・痛みに~」
(3) 政府広報
「美容医療サービスの消費者トラブル サービスを受ける前に確認したいポイント― 」
(4) 国民生活センター
「各種相談の件数や傾向(美容医療サービス)」