30代専業主婦の「働いてないってそんなにいけないことなのか」という投稿が大炎上している。4人の子育てに追われる毎日なのに、ママ友から「なぜ働かないの?」と聞かれることが「疲れる」というのだ。
この投稿に対しては、「憲法に勤労の義務があること知らないの?」「働いて社会貢献をすべき」という厳しい批判がある一方で、「家事・育児も立派な仕事」「4人の子がいては働くのは無理」と応援の声も。専門家に聞いた。
4児がいるのにママ友から「なんで働かないの?」
話題になっているのは女性向けサイト発言小町(2019年11月11日付)に載った「働いてないってそんなにいけないことなのか。疲れる」というタイトルの投稿だ。
「夫婦ともに30代半ば。12歳、5歳、3歳双子の4児の母です。大学を卒業した年に夫と結婚。すぐ専業主婦になったので働いたことがありません。理系を出ており、珍しい国家資格を持っているので何かあれば働くことは可能ですが、子供が成人するまでは働くつもりはありません」
ところが、ママ友たちから何度も言われてきたのは、
「なんで働かないの?」
「専業主婦なんかしてないで働きなよ」
「働かないでよく平気だね」
という言葉だった。
言ってくるのは9割以上が兼業主婦。投稿者はこう憤懣をぶつけるのだった。
「夫の収入で十分やっていけています。逆に『なんで働いているの?』『兼業主婦なんてしないで子供の面倒見なよ』と言われたらどう思うでしょうか。お節介もいいところです。働く必要があるなら働きます、ないから働いていないだけ、ただそれだけです」
この投稿に対しては、「兼業主婦のやっかみだから気にしないこと」という共感と応援のエールが6割ほどあった。
「私も理系大学を出て、就職1年で結婚し専業主婦をして20年以上です。若い時は世間の目の厳しさに折れそうになりました。子供を持たない選択をしたので、なおさら言われました。家庭は千差万別、それぞれの思いがあるわけですから、何を言われてもスルーする能力をつける事をお勧めします。いちいち腹を立てるのは美容によくありません」
双子を含む4人も子どもがいれば、そもそも働くことが無理なのでは、という意見も多かった。
「双子のママです。同時に2倍手がかかりますから、マジ大変です。働くのは無理ですよ。大きくなるまでは大手をふって子育てに専念しましょう。お子さん4人大変ですね。でも楽しいのでしょう。言いたい人には言わせておきなさい」
また、昔は働く女性のほうがバッシングを受けたものだったが......という指摘も。
「私の母は昔で言うところの職業婦人。既婚女性の8割以上が専業主婦だった時代によく言われたのが『なんで働いているの?』『子どもがかわいそう』ですが、仕事に誇りを持っていました。時代は変わり、今や7割近くが兼業。結局、いつの時代もマイノリティーは叩かれやすく、いろいろと言われる存在なのです。この少子化時代に4人のお子さん。なんと素晴らしい。疲れたなんて損ですよ。スルー、スルー」
子育てや家事だって「立派な仕事!」という意見もあった。
「30半ばで子供4人って、大学卒業直後からずっと子育てしているんだよね。それって重要な仕事だよ。なかなかできることじゃないよ。仕事というのは何も外でお金を稼いでくることだけじゃない。主婦業はなかなか評価をされにくいけど、夫や子供のために365日、休日のない大事な仕事だよ」
「働いて社会貢献しなよ」「税金泥棒と言われるよ」
一方で、投稿者を批判する声も4割近くあった。こちらは「憲法には勤労の義務がある」「社会貢献をしなさいよ」「税金泥棒といわれるよ」などと、専業主婦に対する反発のボルテージが高いのが特徴だ。
「あなたは、日本国憲法に『勤労の義務』という言葉があるのをご存じでしょう。子供を育てているとおっしゃいますが、子どもの医療費ってほとんど無料ですよね。幼稚園や小中学校の費用にどれだけ税金が投入されていますか。すべて勤労した人からの税金からです。ご主人は勤労していても、あなたは勤労していない。大学費用にも税金がかなり投入されていたのに返していない。だから税金泥棒なんて言葉ができるのです」
「ニュースを見ていませんか?『女性も皆働いて税金おさめよう』『労働力不足は女性や高齢者の活躍で解消を』『第3号被保険者は優遇されすぎ』......。こうした記事が気になりませんか?自分の家庭内だけの狭い視野になって、社会状況に対する意識失っていませんか?これから日本は厳しい時代を迎えます。専業主婦が優遇されたのとは違う時代なのです」
「働くこと。それはね、お金を稼ぐこと以外に得るものがあり、社会貢献することだからです。あなたは経済的に問題ないことしかあげていませんが、兼業主婦でも経済的には働かなくてもよい人はたくさんいます。しかし、自分の成長と、納税者となり社会保障を払う、社会を担うために働いているのです」
「夫の収入が十分だから働く必要がないというなら中学卒でいいでしょうに。大学まで行く必要ありません。大学で学んで社会貢献したい、専門知識で働きたい人に枠を譲ってあげるべきでした」
「離婚もリストラもある世の中、働かないと危ないよ」
こうした辛辣な意見とは別に、
「働くってサイコーに楽しいのに!」
といった親身なアドバイスも多かった。
「ママ友さんたちが言いたいのは、やっかみではなく、あなたの不安定な生き方がとても気になるからだと思います。まず一度も働いたことがないという社会経験の不足。もう一つは、自分で稼がないことによって自分自身の貯蓄がない点。離婚もリストラもある世の中ですよ。子育てが終わったら、ぜひその資格を生かしてお仕事されるとよいですね」
「ママ友たちは、シンプルにもったいないから、あなたに能力があるのにそれを生かそうとしないから言っていると思う。私があなたの友達なら、早めの社会復帰をおススメするな。能力がない人にはいわない。私も兼業主婦を長いことやっていますが、子供たちが家を出た今、寂しさを紛らわせる意味でも、家以外に会社という居場所があってよかった、と思っています」
「働かないと、いろいろなデメリットがあるよ。社会に出たことのない母親は、子供に就職などのアドバイスや悩み相談ができません。子供が仕事のことで悩んでも『働いたことのないお母さんにはわからない』と言われる。けっこう切なく、悔しい思いを重ねるよ。それが一生続くと思う。子供が成人してから働こうとしても、もう50代半ば。今から就労の準備をしておいては」
働く女性の怒りを買った投稿者の一言
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、この「働いてないってそんなにいけないことなのか」論争の意見を求めた。
――今回の投稿に対する反応を読み、率直にどんな感想を持ちましたか?
川上敬太郎さん「個人的なことですが、まず投稿者さんの家族状況が、わが家とまったく同じことであることに驚きました。4人の子がいて、下2人が双子という順番まで一緒なのです(笑)。それだけに、日々の育児はきっと大変なことと思います。わが家の場合は、わんぱく坊主2人とおてんば娘2人だったので、子どもが幼いころは毎日が戦争状態でした」
「私の妻は、結婚後しばらくは働いていましたが、終電が続く日もあるほどハードな環境だった反動もあり、長男が生まれた時に自ら専業主婦の道を選択しました。今は働いていますが、専業主婦だった15年間も十分ハードな毎日でした。私には、同じことを専業主夫としてできる自信はありません。わが妻ながら本当にすごい人だと思っています」
「なので、同じ4人の子育てに勤しむ投稿者さんが、専業主婦であることがいけないことのように周囲から言われたということに驚きました。私の妻の場合は、そんな経験ありませんでしたから。育児においては、手がかかる子もいれば、かからない子もいます。障がいのある子もいます。人数の多い少ないに関係なく子育ては大変です。ひと口に専業主婦といっても実態はさまざまです」
――確かにそうですね。それにしても、J-CASTニュース会社ウォッチでは何度も専業主婦をめぐる論争を取り上げてきましたが、今回のように憲法第27条の「勤労の義務」や「社会貢献」「税金泥棒」という言葉まで出して専業主婦を厳しく批判する人が多いケースは初めてです。
川上さん「気になったのは、投稿者さんが書かれている『働く必要があるなら働きます、ないから働いていないだけ』という一言です。この言葉の意味を裏返すと、『あなたたちも働く必要がないなら働かないはず、必要だから働いているんでしょ』という意味にも受け取れてしまいます。この一言が、大きな波紋を広げたと思われます」
「働いていると、つらいことや悲しくなることもあります。そういう時には働きたくないなと思うことがあるものです。そんなストレスを背負いながら生活している人にとって、この一言は『あなたたちは、働かなければならないから働いているんでしょ。私は違うけど』というメッセージに伝わりかねません。投稿者さんが社会に出て働いた経験がないということとも相まって、働いている人の気持ちがわからない、嫌味なメッセージに受け取った人が多くいたと思います。投稿者さんも、余計な反感を買わないよう、日々の言動の配慮はされた方がよいかと思います」
「専業主婦は孤独になりがち、周囲とつながろう」
――なるほど。それで、憲法まで持ち出して「働くべきだ」と強調するトゲトゲした批判の声が多かったのですね。一方では、投稿者に対して「働くってサイコーだよ、楽しいよ~」「働かないままだと社会とつながらなくて、将来困るよ」といった善意のアドバイスもあります。こうした意見についてはどう思いますか。
川上さん「『働いた方がいい』というアドバイスと、『働くべきだ』『働かなければならない』というアドバイスのあいだにはニュアンスの違いがあります。働くことが義務ならば、『働かなければならない』ことになります。しかし、世の中には働きたくても働けない環境の人もいます。『働かなければならない』という風潮が強くなると、そういう立場の人たちを追い込んでしまいかねません」
「一方、『働いた方がいい』という意見はわかります。仕事とは、必ずしも『稼ぎ』のためだけに行うものではありません。人生100年時代が言われ、現役期間は長くなっています。仕事そのものが生きがいとしての意味を持つこともあります。また、少子化で労働力人口が減少し続けている中、国や社会にとって、生産活動の担い手になるという意義もあると思います」
――つまり、「働いたほうがいい」というニュアンスの風潮が広がれば、生きがいを持って働きやすくなるということですね。ところで、投稿者に共感する声の大半は「家事や子育ても立派な仕事」「かつては専業主婦が主流だったのに、今は少数派だから叩かれる」「どういう生き方をするかは本人の勝手」といった意見です。こうした考え方をどう思いますか?
川上さん「投稿者さん自身がどうしたいかが一番大切だと思います。そういう意味では、周囲の声を過度に気にする必要はないのではないでしょうか。『家事労働も立派な仕事』という意見については、その通りだと思います。生活費を獲得するための『稼ぎ』と、家事や育児、地域での役割などの『務め』は、どちらも同じように大切です」
「かつては大半が専業主婦でしたが、いまは専業主婦と共働きの比率が約1:2になっています。専業主婦は少数派です。私たちの調査では、年代が上がるほど、専業主婦であることに誇りを感じている人が多い傾向がありますが、30代以下では7割の人がうしろめたさを感じると答えています」
――すると、投稿者のように若いのに「自信を持って専業主婦のどこが悪い?」と言い切れる人は珍しいですね。投稿者にはどうアドバイスしますか。
川上さん「勝手な想像ですが、投稿者さんはいろんなことがそつなくこなせる方なのではないかと思います。子宝にも恵まれ、自らは高学歴で優秀であることがわかります。一方で、社会に出て働いた経験がないことで、世間知らずな印象も与えてしまっているのかもしれません。投稿者さんご自身の本来の姿と、周囲に見えている姿とのギャップが大きい可能性があります」
「専業主婦は時に孤独になりがちです。もしママ友たちとの付き合いを大切に考えるのであれば、そのギャップを認識した上で振る舞うことをお勧めします。夫はもちろん、気の置けない友人などにも時折悩みを打ち明けたりして、わかってくれている人が周りにいる状態をつくっておかれると心強いのではないでしょうか」
(福田和郎)