しぼむアベノミクス効果に、政府は補正予算の編成に意欲
とはいえ、現代財政理論には、いくつかの疑問がある。
そもそも、政府総債務残高の上限が、なぜ、家計貯蓄なのかという点だ。家計が保有する国債は発行額全体の2%にも満たない。家計からの貯蓄を受け入れている金融機関も資金運用の大半は国債以外のもので行っている。つまり、国債の消化能力を家計に置き換える根拠は見つからない。
むしろ、国や自治体のほうが国債で運用されているものが多く、さらに家計の貯蓄を国債による運用のための余剰資金と考えるならば、企業の内部留保のほうがはるかに国債による運用のための余剰資金としては妥当だろう。
こうしてみると、MMTや現代財政理論が盛んに取り上げられる背景には、財政政策を出動させるための「免罪符」を得ようという意図的な思惑があるように見えてしまう。
10月1日から消費税率が2%引き上げられて10%になった。消費税率1%の引き上げは、約2兆円の税収増となる。2%の引き上げでは約4兆円の税収が増加するはずだ。しかし、2019年度の税収は当初予想を大幅に下回ることになると予測されている。
国民に負担を強いて消費税率を引き上げても税収は不足。その一方で、政府は2019年度の補正予算を編成して経済対策を打ちたい。アベノミクスの効果がしぼんでしまったからだ。
つまり、政府にとって頼れるのは財政資金しかない。「財政健全化」を黙殺するためにも、財政政策の規律を緩める財政理論は「勿怪の幸い」なのかもしれない。(鷲尾香一)