2019年初めから、現代貨幣理論(MMT:Modern Monetary Theory)という新たな経済理論がメディアなどの盛んに取り上げられた。
MMTの最大の特徴は、「財政赤字に問題はなく、政府が財政再建を行わなくとも、財政が破たんすることはない」という考え方で、その成功例として、政府債務がGDP(国内総生産)の240%にも達しながらインフレにも陥らず、財政破たんもしていない「日本」が取り上げられているためだ。
日本は世界でも稀な「成功例」
国内では、数年前から「政府総債務残高が家計純金融資産残高を上回なければ、国債消化に困難が生じることはなく、財政危機が起きることはない」という考え方「現代財政理論」が、一部の学者やエコノミストのあいだで唱えられている。
MMTでは財政について、不況期には政府が借金をしても(財政赤字でも)、政府支出を増加させることで資金が民間に回り、景気が回復すると考える。
不況時の財政黒字は、民間に資金が回っていないことを意味し、不況時に財政支出を行わないと、不況は一段と深刻化するという考え方だ。そして、「政府債務がどれだけ膨らんで、財政赤字となろうとも、財政再建を行わなくとも、債務不履行に陥ることはない」と理論付けている。
その根拠としているのが、「政府は『通貨発行権』を持っており、いくらでも通貨を供給できるため、債務の期限が到来した場合には、通貨を発行して支払いを行えばよい」との考え方だ。つまり、「財政ファイナンス」を認めることを前提としているのだ。
現在の経済学の主流派は、財政ファイナンスを増税なしで生活が潤うことを欲する国民に対するウケのよさだけを狙う「ポピュリズム的」な政策に利用されやすく、インフレの加速を招き、結果として国債価値の暴落によって通貨価値を毀損し、財政破たんのリスクを高めると、財政ファイナンスには否定的だ。
また、MMTでは不況時に支出された財政資金は、好況時に徴税(税金)を通じて回収されるとしており、景気の状況に応じて税率を変更するという考え方をしている。これは、税金が物価のコントロールにも使われることを意味する。
たとえばデフレ経済下であれば、減税を積極的に行うことで、財政出動と相まって景気を回復できるとする。好況時にインフレ状態になれば、増税を行うことで景気を冷え込ませ、財政出動分を回収するというわけだ。
ただし、MMTには絶対条件がある。それは、自国に通貨発行権があることや自国通貨建て国債を発行していることだ。