国産ブドウ100%で、国内醸造される「日本ワイン」。近年、この日本ワインが国際的なコンクールで賞を獲得するなど、注目が高まっている。
こうした「日本ワイン」ブームを盛り上げているのが、ワインコンクールで多くの賞を受賞している、株式会社エーデルワイン(岩手県花巻市大迫=おおはざま=町)だ。2003年から代表を務める藤舘昌弘社長に、その取り組みを聞いた。
グラスに入れてから30分ほど置いたほうが美味しいワイン
―― 「エーデルワイン」には、どのような特徴があるワインでしょうか。
藤舘 昌弘社長「濃く、『個性的』と評される味が特徴です。グラスに注いでから味が立ち上がるまでに30分ほど置いたほうが美味しく、いわゆる『固い』ワインだといわれています。
こうした味の特徴は、生産地の気候や土壌、造り手の個性などによるところが大きいでしょう。岩手県花巻市大迫町は、夏は高温、冬は寒冷という典型的な盆地性気候に加えて、年間降水量が1200ミリメートルと、県内では最も雨量の少ない地域です。
しかし、ヨーロッパのブドウの産地と比べると約6倍の降水量ということもあり、棚にビニールをかけたり、作付け面積が小さいため、すべてを手作業で行ったりするなど、手間暇かけて栽培しています。また、ここ周辺の地層は、日本国内でも非常に古いことで有名で、5億年前の古生代の地層と比較的新しい新世代の地層、石灰質などのさまざまな地質が重なりあっています。こうした地層と冷涼な気候、造り手の配慮によって、ワインの個性的な味がつくり出されているのです」
―― この地域で、どのようにワイン造りが始まったのでしょうか。
藤舘社長「大迫町でのワイン造りの歴史は、およそ60年前にさかのぼります。戦後まもなく、この町は台風に襲われ深刻な農業被害を受けました。
当時の國分謙吉岩手県知事がこの地域を視察に訪れた際、『フランスのボルドーに似ている』と感じ、ブドウの栽培を奨励したことに端を発します。そして1962年には、ワイン醸造に力を入れるようになり、合資会社を設立します。1974年には、姉妹都市交流のあるオーストリアの国花『エーデルワイス』にヒントを得て社名を『エーデルワイン』に変更し、今に至っています。
じつは、私たちは有名な赤玉ポートワイン(サントリー)に、原料のワインを供給していたこともあるんですよ」
―― 藤舘社長が就任されて、今年(2019年)で16年目になります。どのようなことに力を入れてきたのでしょう。
藤舘社長「社長に就任して、これまで最も力を入れてきたことは、エーデルワインを国内外のコンクールに出品するということでした。初めのうちは、周囲は『出品料がかかるのでもっと、うまくできてから』と慎重でしたが、『他人が評価するのだから、どう評価されるかは出品してみないと誰にもわからない』と説得し、以来、積極的にコンクールに出品するようになりました。
2003年に、第1回国産ワインコンクール『JAPAN WINE COMPETITION』での受賞を皮切りに、2018年には『オイスター(牡蠣に合う)ワインコンテスト』や、『オーストリア・ウィーン・インターナショナルワインチャレンジコンテスト』での受賞のほか、さまざまな賞をいただいています」
「女性に好んで飲んでもらいたい」
―― コンクールの受賞によって、社内や地域でなにか変化はありましたか。
藤舘 昌弘社長「『エーデルワイン』が国内外の賞を受賞するようになったことで、農家の皆さんはブドウ造りにますます力が入るようになりました。皆さんは、『〇〇さんの畑のブドウのワインが賞を獲った』と聞けば、『自分たちも頑張ろう』と、さらに努力するようなマジメな方たちばかりです。
毎年3月になると、農家や専門家の方たちが集まり、賞を獲った畑のブドウを品評するイベントを開催しており、研鑽を重ねています」
―― 近年、天災が多く、各地で被害が報告されていますが、影響はありましたか?
藤舘社長「私が社長に就任して以降、大迫町は大きな天災に遭っていません。今年の台風も大きな影響はなく、2011年の東日本大震災の際にも、ワインのビンが70本割れた程度の被害で済みました。天候や天災に左右されることが多い私たちの事業にとっては、本当に幸運なことで、ありがたく思っています」
―― 今後はどのような取り組みを、お考えでしょうか?
藤舘社長「おかげさまで、売り上げは順調に推移しており、最近はインターネット販売やインバウンド向けの販売が増えています。『エーデルワイン』の品質も格段に良くなっていますので、相応しい評価を得て価値を高め、ブドウを栽培する生産者さんに還元したいと思っています。
ワインは、女性に好まれる飲み物ですので、まずは女性の方に、エーデルワインを選んでいただきたいと考えています。その一環として、近年、審査員が全員女性で構成される、『フェミナリーズ世界ワインコンクール』に出展し、今年は赤・白ワインの両方で金賞を受賞しました。消費の中心にいる女性が好んで飲むようになれば、次第に周りの方たちにも波及するはずです。今では、オンラインショップや都内主要デパート、アンテナショップ、物産展などでも購入でき、手に入れやすくなっています。より多くの人に手に取っていただければ、これほどうれしいことはありません」
(聞き手 戸川 明美)