「テーマパーク」のような本屋さん
店主の西山さんは若い頃から中野書店に勤め、たまたま漫画部に配属されたことからその面白さに引き込まれたと言う。パソコンのない頃はワープロを駆使。その後のネット販売との付き合い方にも格闘した。中野書店での試行錯誤が、夢野書店にも活かされている。
「昔なじみのお客さんも多く、その人たちにとっての懐かしさを大事にするように心がけている。一方で、若いお客さんは昔の漫画を手にすることで、学びや発見があるはず。そういった出会いの手助けができれば」
と、西山さんは話す。
店内のレイアウトには日々頭を悩ませるそうだ。
「入っただけで楽しめるような、テーマパークのような空間を目指したい。けれどごちゃごちゃさせるのも見づらいし、今は分類分けの目印をどうわかりやすくするか考えている」
雑誌のコーナーには天井から吹き出しの形をしたプレートが下がり、「あ雑誌だ」とある。このようなお茶目な工夫は、お客さんを楽しませたい西山さんならではの発想だろう。
夢野書店は、漫画やグッズが人の手から人の手へ移る、中間地点だ。西山さんは、そのことを楽しんでいるようであった。
「綺麗な本、珍しい本との出会いがうれしいのはもちろんだが、持ちこんでくれたお客さんのエピソードを聞くのはとても楽しい。漫画は幼少期に触れることがほとんどなので、お客さんも自然と頬を緩めて『昔、おじさんからもらってね』『父親のおみやげで』と、懐かしそうに話してくれる。そういった話を聞くと、一冊の漫画に重みを感じると言うか、大切に売りたいなと思える。大切に扱ってくれるお客さんに引き渡したい、って思うんですよ」
ガラスケースから出して紹介してくれたのは、水木しげる著「化烏」(桜井文庫1、昭和50年・東考社)。西山さんは、「個人的に好きな作品。不気味さと虚しさの表現がなんとも面白く、新鮮な驚きがある」と、選んだ理由を話す。復刻版は出回っているが、状態のよい文庫版は、古書としても人気が高いそうだ。
こちらは平積みの一冊。巨匠・手塚治虫が絶賛したとされるものの、若くして結核で亡くなった漫画家、河島光広著(1961年7月号以降は矢島利一作画)の「ビリーパック」(少年画報 昭和36年12月号~同37年7月号より復刻)だ。手塚治虫やアメコミの影響が色濃く見られる本作は、そのクオリティの高さに今でも根強いファンが多いそうだ。(なかざわ とも)