SNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)はインターネットの歴史の中では新参者だが、それ以前に登場した、どのサービスよりも速いスピードで拡大し「日々の情報行動のゲートウェイとして、不動の地位」を占めるようになっている。
個人発信のツールとしては、掲示板やメルマガ、ブログが「前史」としてあるが、これらが従来のパーソナルメディアのデジタル版の枠に収まっていたのに対して、SNSは短期間に機能を拡充させ、高画質の動画を共有・拡散までの多様性を備える。
そうした特性からSNSはビジネスシーンでも活用が盛んで、動画機能はさらに進化し、ますますプレゼンスが高まるとみられる。
「SNS変遷史 『いいね!』でつながる社会のゆくえ」(天野彬著)イースト・プレス
「超特急」で普及したデジタルサービス
自動車が62年、電話50年、テレビ22年、コンピューター14年――。これらは、生活者向けのデバイスやサービスが、利用者5000万人獲得という普及レベルに達するまでにかかった年数だ。
これに対して、デジタルサービスでは、インターネット7年、ユーチューブ4年、フェイスブック3年、ツイッター2年と、いずれも超特急レベルだ。時代が異なるとはいえ、それぞれがその時代に応じた発明であり、「SNSが、いかに圧倒的な速度で普及していったかが見て取れる」比較だ。
そして「普及」を果たした10年ほど経ったときには、その存在は揺るぎないものとなっていた。
本書「SNS変遷史 『いいね!』でつながる社会のゆくえ」は、登場から「15年あまりで社会のあり様を大きく変えた」SNSに注目。短い間ながらも盛りだくさんだった成長の過程をたどり、今後に予想されるサービスの進化や、そのことが及ぼす社会への影響を検討した。著者の天野彬さんは「電通メディアイノベーションラボ」主任研究員で、スマートフォンユーザーやSNSの動向などを研究している。
テクノロジーの進化と、ユーザーのニーズの高まりとの相乗効果でSNSは、動画の高画質化などビジュアル面の機能が進化。30~40代以上の層のユーザーでは「多機能化についていけない」と、利用があるレベルでとまっていたり、使わなくなったケースも多いというが、そうした人たちにとっては、本書をアシストに、SNS再チャレンジのきっかけにもなりそうだ。
TVタレントより高い親和性をもつ「ユーチューバー」
「インスタ映え」の流行語で、使ったことがない人でもその存在だけは知っているインスタグラム。インスタ映え作品が多い「インスタグラマー」は、多くのフォロワーを抱え、強い影響力を持つようになる。
動画投稿サイト、ユーチューブでは、「ユーチューバー」と呼ばれるパフォーマーが登場するようになり、その仕事でプロ化する人も少なくない。
インスタグラマー、ユーチューバーらは、インターネット上で影響力を持つ「インフルエンサー」となり、近年はそのビジネス利用が盛んになっている。というのも、こうしたインフルエンサーとテレビタレントを合わせた、生活者に与える影響調査(10~40代男女)などで、1位=ユーチューバー、2位=テレビタレント、3位=インスタグラマー――という結果が出るなど、インターネット利用者らのあいだでは総じて、テレビタレントよりインフルエンサーへの親和性が高いことが示されているからだ。
同じ調査で、「インフルエンサーの投稿とメーカーやブランドの投稿のどちらを信頼するか」という問いには、インフルエンサー=37%、メーカー・ブランド=35%と拮抗した。
SNSのビジネス利用が拡大しているのは、インフルエンサーがテレビタレントに代わる存在だからというわけではない。情報伝播のタイプが、SNSにつきものの「いいね!」と深い関係をもつ「シミュラークル」モデルであるというのも大きな理由の一つだ。「シミュラークル」は、シミュレーションといった言葉と同じ原義を持ち、「模倣」「コピー」「模造」などが近い意味を持つ。「いいね!」がリレーされている間に、いつの間にか多くの人に同じ情報が共有されることになる。
消費者がインフルエンサーに求めているのは......
スマホの普及で、SNSのビジュアルコミュケーションでは動画が増え、シミュラークルにより拡散した動画で、多くの人が「疑似体験」ができ、商品、サービスについても、より深い検討の機会が増えている。
インスタグラムでは2018年6月から、縦長フォーマットの長尺動画アプリ、IGTVを導入。中国発のモバイル向けショートビデオ、TikTok(ティックトック)は、料理などの投稿で写真にとってかわる勢いを持つ。飲食店の中にはこれを受け、湯気などで動画に映える料理を提供する店もあるという。
SNSを利用する消費者は、商品、サービスの情報のすべてをインフルエンサーに依存しているわけではない。先に引用した「インフルエンサーの投稿とメーカーやブランドの投稿のどちらを信頼するか」という質問の回答でわかるように、信頼度はインフルエンサーとメーカー・ブランドで拮抗している。
消費者がインフルエンサーに求めているのは「自分に合うかどうかの判断の手助け」であり、メーカー・ブランドには「客観的なスペックや情報を求めている」ということだ。
消費者へのアピールのためメーカー・ブランドには、上手な棲み分けが求められそうだ。
「SNS変遷史 『いいね!』でつながる社会のゆくえ」
天野彬著
イースト・プレス
税別920円