「患者さんの前でそういう話はしないで...」は隠ぺいではない
◆医療者としての演技
たとえば、医療事故から何年もたった後に、医療者が患者さんの前で
「あんな事故はめったに起きないのに、なぜいつまでも患者に気を遣わなければならないのか」
「あんな稀な医療事故が一回起きただけで、不安を覚える患者は感情的すぎるのではないか」
と言うことは、世間からどう受け止められるでしょうか。あるいは、ある医療事故が起きた時、同じ病院で事故に関係していないスタッフや、別の病院で同じような手技を行っている医療スタッフが、
「自分は同じ病院にいても全然関係ない」
「あの事故は一つの病院の怠慢なのに、なんで自分たちまで責められなくてはいけないのか」
などと、患者さんに聞こえるところで話すことは、いかがでしょうか。
もちろん医療者も人ですから、その心の容量には限界があります。何か大きな出来事が起きた時に、自己弁護・自分の組織の弁護をしたくなることは当然の反応です。しかし、医療者が患者さんの前で発する言葉は、「内心そう思ってしまうこと」や「内輪でそういう愚痴をこぼすこと」とはまったく別物です。
「患者さんに聞こえる場所ではそういう話はしないように」
そのマナーは、決して医療者に表面上のごまかしを教唆するものではなく、患者さんを傷つけないための医療者のマナーであり戦略である、と言えるのではないでしょうか。