企業の研修というと、専門家による「コンサルティング」の場であり、従業員にとっては「学び」の場であるが、近年はこれらに代わって、あるいはこれらと並んで「コーチング」や「気づき」という言葉しばしば使われる。コーチングは、1980年代後半ごろから、仕事での成功だけではなく個人としての成功も一緒に目指すアシストとして一般的になったという。
本書「selfish」は1998年に米国で刊行されベストセラーとなり、なお売れ続けているコーチングの名著。その初の完全日本語訳版だ。同書で「人生が一変した」というベンチャー経営者の後押しで、出版が実現した。
「selfish」(トマス・J・レナード、バイロン・ローソン著、糟野桃代訳、秦卓民監修)祥伝社
「人生を一変させるような体験」
本書の刊行を強力にプッシュしたのは、総合コンサルティング会社の共同経営者で、監修者に名を連ねる秦卓民さん。秦さんは、自身でもスポーツ選手、企業経営者らを顧客にビジネスのパフォーマンスが上がるエグゼクティブコーチングを行っているほか、ビジネス書などの著述活動にも積極的だ。
秦さんは「がむしゃらに働き続けていた」独立3年目のころ、著名なビジネスコーチと出会う。そして、その人物とのやりとりから、気づきを得て、「当時僕らの会社の月商ほどするフィーの彼のコンサルティングサービスを会社に導入」した。その半年後、秦さんらの会社の月商は3.6倍になったという。
本書の元の本は、そのビジネスコーチに紹介されたもの。元祖ビジネスコーチとされる、トマス・レナード氏の「THE PORTABLE COACH(ザ・ポータブル・コーチ)」。レナード氏は会計士の仕事をしていたが、顧客らが求めているのは、単に金銭的な豊かさではなく、人生をより良くすることだと分かり、さまざまな試みを繰り返してコーチングを形づくった。米国コーチング業界を発展させた中心人物で「パーソナル・コーチングの父」と呼ばれる。
「THE PORTABLE COACH」には「人生で成功するための28の戦略」が示され、それぞれに詳しい解説が加えられた、いわば自己啓発書。その内容は、同書を紹介してくれたビジネスコーチとのやりとりで得た気づきそのものだったという。
秦さんは「THE PORTABLE COACH」を読んだ成果として、会社の売上規模が6年間で6倍になったこと、自分が週に5時間程度しか出社しなくても成長し続ける会社になったこと――などを列挙。売上規模の拡大に「がむしゃら」は不要になり「本当にやりたいだけのことをやりながら」実現した。
「THE PORTABLE COACH」は一部企業や、グループなどでたまに読書会など行われているが、じつは何冊かある翻訳版はいずれも原書をまるまるカバーしていないという。同書との出会いで「人生を一変させるような体験」をしたという秦さんの思いを込めるように、本書は、28の戦略について完全に訳しきっている初のバージョンだ。