分断が先にあった
分断化の「ネット主犯説」に、もっともらしさを与えてるのはブログやSNSの拡大だ。本書によれば、こうしたネットメディアの利用者は、政治的に過激であり、分断化が進んでおり、ネット利用と分断化には「正の相関関係がある」が、だからといってネット利用、即、分断化とはいえるものではないという。
それは、もともと政治的に過激だった人が、自分の主張を広めるための格好のツールとしてネットメディアにとびついたことが考えられ、因果が逆の可能性があるからだ。つまり、分断が先にあり、それからネットメディア利用が起こったのであり、ネットが分断の原因になったわけではない。
とはいっても因果関係の判定は困難。そこで著者らの調査では、同じ人物を2時点で追跡して比較し、ネットメディア利用開始前後でその人物の「分断」の度合いの変化をはかった。度合いが上昇していれば、ネットメディアのために分断化が進んだと判断できるのものだが、その傾向は見つからなかったという。
また、リアルな場面では、自分と同じ意見と接することを好む選択的接触が多くなりがちだが、ネットでのそれは強くはない。むしろ、自分と異なる意見に接している傾向があるという。リアルでは、新聞、雑誌などのメディアを購入、あるいは図書館などでの閲覧・借り出しなどの出費、などと手間がかかる一方、ネットではそれらが軽減されアクセスがより容易であることもあるが、SNSなどで接する論客の4割程度は自分とは反対意見の人で、接する論客の9割以上が同じ意見の人というのは1割程度だった。
「ネットは社会を分断しない」
田中辰雄、浜屋敏著
KADOKAWA
税別860円