最近、「銀行」についての本の出版が続いているが、そのタイトルはいずれも悲観的。本書「銀行ゼロ時代」(朝日新聞出版)も書名をみると、間もなく銀行がなくなってしまいそうな印象だが、読み進めると、シナリオによってはメガバンクも地方銀行も再編されて生き残り、最悪の場合でも銀行がすべて絶えてしまうことがない、とされている。
とはいえ、大きく変貌していくことは間違いなさそうだ。
「銀行ゼロ時代」(高橋克英著)朝日新聞出版
「三重苦」との闘いの中で
いま、銀行は「三重苦」に直面している。三重苦とは、人口減少、低金利、デジタル化で、このうち、最初のふたつの人口と金利そのものについて銀行は手を施すことはできないが、デジタル化は自助が可能で、生き残り策はそれが足掛かりとなる。
デジタル化となれば、テクノロジーがモノをいうだけに、自助とはいっても、銀行だけでできるものではなく、プレーヤーは銀行だけにはとどまらない。今後のシナリオが複数になる理由の一つだ。
すでにインターネットを使った個人向けビジネスは、スマホが普及してからはあっという間に広がり、現代では欠かせないバンキングスタイルになっている。貸出でも、対面などなく、AI(人工知能)判断によるシンプル運営が可能だ。
著者の高橋克英さんは、金融コンサルティング会社代表取締役。三菱銀行、シティグループ証券、シティバンクなどで、銀行クレジットアナリスト、富裕層向け資産運用アドバイザーとして勤務したキャリアを持ち、業界の変化をつぶさにモニターしている。
高橋さんは「銀行は、法人向け貸出中心のビジネスモデルから、個人向け資産運用を核にした新しいビジネスモデルへの転換を図ることが、現実的な生き残り策ではないだろうか」とみる。
新興の住信SBIネット銀行、楽天銀行、イオン銀行などネット銀が総じて好調なのは、店舗を持たず人員が少ないことに加え、法人向け貸し出しではなく住宅ローンなど個人向けビジネスを中心としているからだ。
三菱UFJフィナンシャルグループでは、三菱UFJ信託銀行が法人向け貸出だけではなく、住宅ローンなどの貸出業務から全面撤退。個人向け資産運用や信託業務に集中するようになっており、ビジネスモデル転換のさきがけとみられている。
カギ握る「AIレンディング」
銀行ビジネスのデジタル化に参入しようとしているのがIT企業だ。「AIレンディング」(オンライン融資)といわれるサービスで、法人向けでは、決済や財務情報をリアルタイムで把握するクラウド会計のデータを、個人向けでは、年収や勤続年数などをAIで分析し、貸出金利や期間など融資条件を設定するもの。
ノンバンクのほか、楽天やリクルートなども日々の決済や口コミなどのデータから信用力を判断し、銀行を介さず貸出事業に参入している。
銀行のなかで「AIレンディング」に踏み出したのはみずほフィナンシャルグループ。みずほ銀行とソフトバンクが出資する「Jスコア」で2017年9月から個人向け貸出を開始している。「Jスコア」は、購読新聞や英検資格の有無などまで及ぶ約150件の情報に基づいて信用力を点数化し、融資可能額や金利を決める。融資申し込みから口座振り込みまでスマホで完結。最短で即日融資が可能だ。
みずほは20年度には、LINE(ライン)とネット銀行を開業する。こちらは、信用スコア事業、個人ローンなどもカバーされるという。
三菱UFJフィナンシャルグループは、スマホアプリの機能充実、住宅ローン申し込みのデジタル化の開発などに加え、フィンテック子会社を設立するなど、みずほ同様、デジタル化路線に積極的。ただ、みずほのシステム自前構築とは対照的に、コスト削減やセキュリティーの観点から、GAFAの一角であるアマゾンの汎用クラウドAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)に置き換える動きも進めているという。
アマゾンばかりか、これもGAFAの一角であるアップルや、ほかのデジタル・プラットフォーマーも「虎視眈々と銀行業務参入を狙って」おり、銀行側の関わり方が中途半端なままだと、信用力を利用されるだけでデジタル・プラットフォーマーの下請けになる可能性もあるという。
「銀行ゼロ時代」
高橋克英著
朝日新聞出版
税別790円