東京・神保町本屋街には、「主」がいる。
「神保町の顔」とも言われる、高山肇さんがその人。街のシンボルともいえる「古書センター」のオーナーであり、1階に店を構える神保町の老舗「高山本店」の店主であり、18年間にわたり千代田区の区議会議員を務めた。まさに正真正銘の神保町の顔役である。
街のシンボル「古書センター」の1階で
区議を務めていたとお聞きして、「どんな厳しい雰囲気の方なんだろう」と、緊張して高山肇さんを待つと、現れたのは眼鏡の奥に笑みをたたえた老紳士であった。その柔和な雰囲気に、ほっと緊張が解れる。
高山さんは席につくや否や、「じゃ何から話そうか」と、こちらが質問をする間もなく神保町の街の歴史について聞かせてくれた。
高山さんの語りは、まるで自身で見られたように色鮮やかだ。それもそのはず、高山本店は明治8年の創業で、100年以上にわたって神保町を見守ってきた。高山さんは4代目として店を継ぎ、生まれも育ちも神保町。その身体には歴史ではなく、先代達の目を通した風景、現在の地続きの過去として、街の記憶が息づいているのだろう。興味深い話は尽きることはなかった。
高山本店は主に能や芸能、料理の本などを取り扱っている古書店。店内に目立つのは高く積み重ねられた和綴じの謡本(うたいぼん)。お客さんの多くが謡本をはじめ、新刊書店では手に入らない本を求めてやって来る。高山さんは、こう話す。
「お客さんのほうが自分より詳しいことばかりだから、いろんな発見があって面白いよ。お客さんのために本を探すことで自分の世界が広がるように思う。何より膨大な量の本を相手にする仕事は好奇心が常に刺激されるね」
高山本店が入った「古書センター」のビルには、カレーブームの火付け役となった「ボンディ」や2019年2月に武道館でのライブを成功させるなど、落語ブームに重要な役割を果たした「らくごカフェ」などの多様な店舗が入る。
オーナーとして高山さんは、
「ここ(古書センター)は文化発信基地のような場所。新しい挑戦をどんどんして欲しい。新しい文化との出会いは本の街だからこそ。いろんな挑戦を見守れる場所にしたい」
と、温かく話した。
「臆せずに、うちだけでなく、いろんな古書店を見てほしい。ネットにはない、思いがけない出会いがあるかもしれないから」