泥沼化する日韓関係。いったいどうしたらよいだろうか――。というわけで、韓国の公共放送であるKBSが日本と韓国のジャーナリスト同士が解決策を活発に話し合う討論番組を放送した。
ところが、韓国の視聴者の猛反発を浴び、謝罪する羽目に追い込まれた。日本人記者のある発言が「売国的だ!」と問題視されたのだ。発言内容は、日本ではごく一般的な見解と思われるが、何がよくなかったのか。韓国紙で読み解くと......。
産経対朝日の「反韓」VS「親韓」論争が韓国テレビで実現
中央日報(2019年10月29日付日本語版)「KBS時事番組の制作スタッフ側、産経新聞解説委員の発言について『不快感を与えて申し訳ない』」が、KBSの謝罪の経緯についてこう伝えている。
「韓国公共放送であるKBSの時事番組『時事直撃』が日本人パネルの主張が論議を呼んだことに対して謝罪した。『時事直撃』の制作スタッフ側は10月28日、公式立場を出して『本放送に関連した多くの批判を重く受け止めている。視聴者の鋭い指摘に対して残念で申し訳なく思う』として、『今後放送を制作しながら韓日関係に関する問題をさらに深く省察し、責任感を持って望みたい』と明らかにした」
KBSの制作スタッフ側は「一部の発言を持って批判に批判が続く状況がとても残念だ。番組全体を見れば理解されるのではないかという残念な気もする」とし、「だが、現在の韓日関係によって悪化した国民情緒と感情をきちんと考えることができなかったことを痛感した。結果的に企画意図と違って論議を呼び、視聴者に不快感を与えたことに対して骨身にしみるように受け止め、繰り返してお詫びを申し上げる」と話したのだった。
確かにKBSのスタッフが残念がったように、番組の企画自体は非常に画期的なものだった。日韓双方のジャーナリストが2人ずつ、計4人で話し合うのだが、日本のメディアでは考えられない面白い組み合わせだったのだ。
日本側は産経新聞の久保田るり子解説委員と朝日新聞の中野晃論説委員。2人ともソウル特派員の経験がある。韓国側は、韓国最大の発行部数を誇る保守系の朝鮮日報のソン・オジョン副社長兼社会部長と、左派系のハンギョレのキル・ユンヒョン国際ニュースチーム記者だ。こちらも2人とも東京特派員の経験がある。
しかもユニークなのは、日韓双方の記者同士が「保守」と「革新」の2対2でチームを組み、それぞれ日本側と韓国側の「言い分」を戦わせるのだ。
「保守」で「日本側」は、産経新聞と朝鮮日報の記者たち、「革新」で「韓国側」は朝日新聞とハンギョレの記者たちといった按配だった。それにしても、よくこんな組み合わせのタッグマッチを各新聞社が許可したと感心する。
そのうえ、この討論会は東京のリトルソウルといわれる新大久保の居酒屋で収録された。双方のチームが、マッコリかどうかは不明だが、まず乾杯してから和気あいあいと議論が進んだ。この模様は10月25日にKBS「時事直撃」の「韓日関係、認識と理解2部作-第2部、韓日特派員の対話」として放送されたのだった。
「日韓関係悪化の原因は文在寅氏の歴史観」が激昂の元に
いったい何が問題になったのだろうか。
まず、激しい批判が殺到したのは、産経新聞の久保田るり子記者が「日韓関係の悪化の原因は、文在寅(ムン・ジェイン)氏の歴史観のせいだ」と述べたことだった。久保田記者はさらに、「嫌韓があって、反日が出てくるのではない。韓国の反日があるので、日本が嫌いに対応するのだろう。また、文在寅政権は、親日のルーツを持つ朴槿恵(パク・クネ)前大統領がしてきたことを外交的失敗と規定して、それを正そうとする。反日の文在寅政権のそのような確信があるかぎり、日韓対話は難しい」とも発言した。
中央日報(10月28日付韓国語版)「『韓日関係、ムン・ジェイン氏の歴史観のせい』論議に 『時事直撃』のMC釈明」がこう伝える。
「KBS時事番組『時事直撃』司会者イム・ジェソン弁護士が『韓日関係の原因は、ムン・ジェイン氏』という久保田るり子記者の主張を、編集を加えずにそのまま放送したことについて、立場を明らかにした。番組のMCとして、『私は答えなければならない責任がある』と、今回の論争について口を開いた」
産経新聞は、韓国国民の一部からは「極右・嫌韓新聞」とみられている。その産経新聞記者の発言を「濾過」せずに思う存分語らせたことで、司会者のイム弁護士の元にも「売国的だ」という批判が殺到したのだった。イム弁護士は「久保田記者の発言は、その話を聞く私にも衝撃だった」と語った。「しかし、そのような認識が、日本社会に存在し、また、極端だと片付けることができない程度の割合を占めていることが事実であれば、それと対面する必要がある」として、「加害国の歴史観を『編集』してしまうのではなく、対面して議論して、なぜそのような認識が存在するかどうか分析することが目標だった」と釈明した。
イム弁護士は「日本のメディアで知韓派と評価することができる人々の合理的な発言は消えて久しい。韓国メディアでは韓国に友好的な日本の知識人の発言が選別されて紹介されているが、現実を完全に認識する必要がある」と付け加えたのだった。
「文大統領」と呼ばず「文氏」がけしからん!
もう一つ問題になったのは、久保田記者が文在寅大統領を、「大統領」という敬称をつけずに、「文在寅氏」と呼んだことだった。KBSには「KBSは親日放送か ?」「ムン・ジェイン氏? この放送正しい?」「もう受信料を払わない」という抗議が相次いだ。
聯合ニュース(10月28日付韓国語版)「制作スタッフは『日本では安倍首相も「さん」と表現』」がこう伝えている。
「『時事直撃』」の制作陣は10月28日、放送企画意図を説明した。『韓日問題はムン・ジェイン氏の歴史観のせいだ』と発言した久保田るり子産経新聞解説委員の発言をそのまま放送したことについては、『産経新聞は右偏向された安倍政権と同じ側で、かなりの影響力を及ぼしている』とし、『韓日関係における安倍政府の立場を聞くためには、産経新聞などの保守右翼メディアが必要だと考えた』と述べた」
そして、久保田記者が「文在寅氏」と語ったことについては、KBSスタッフは、こう釈明したのだった。
「日本では『~さん』という表現が、格式を備えた尊称語として使用される。安倍首相を指す時でも、(朝日と産経の)出演者の両方が『安倍さん』という表現を『安倍首相』いう言葉と一緒に使用した。ただ制作陣が字幕を使用して、国民情緒をより考慮して慎重に使用していなかった点は申し訳ないと謝罪した」
つまり、久保田記者が「文在寅氏」と発言した個所を、字幕で「文在寅大統領」と入れておけばよかったと謝罪したのだった。
(福田和郎)