動かないドル円は米中対立の「副産物」なのか? 今、円高にならないワケを言おう!(志摩力男)

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成長する中国の脅威

   かつての日本は成功しすぎました。米国経済が衰え、今度は日本やドイツといった国が米国を支える番になったのです。それを象徴するのが「プラザ合意」でした。日本は自ら積極的に円高を受け入れたのです。

   ただ、米国はそれだけでなく、自国市場から日本を締め出そうともしました。貿易摩擦問題です。クリントン政権では、日本からの輸入量を一定限度に留めようと「数値目標」まで持ちかけられました。

   この当時、米国は日本を同盟国というより、明らかに「経済的仮想敵国」と見ていました。激しい為替変動は、その象徴です。「数値目標」を受け入れないのであれば、すべては市場に委ねられることになる。日本の対米貿易黒字がある限り、円高になるという構図になりました。

   今、状況はかなり違って来ています。日本は「失われた30年」、この間GDP(国内総生産)は1.2倍にしかなっていません。その一方、遅れた発展途上国であった中国が台頭し、GDPは40倍以上の成長を見せ、今やテクノロジー的にも米国の覇権を脅かす存在となりました。

   おそらくは今後数十年、米中2強時代が続きます。今、日本が米国側陣営に付くことは、当然のことのように感じられます。しかし時間の経過とともに、中国経済はさらに大きくなっていきます。

   米国は、気が気でないでしょう。小さくなったとはいえ、日本のGDPは世界第3位。現在1位の米国側に付くのか、将来1位となる中国に付くのか、日本の動向が米中の命運を決するとも言えます。

   こうした状況ですから、米国が日本に「優しい」のは当然とも言えます。米国は日本を守らなければなりません。つまり、「100%ない」とは言えませんが、表向きのトランプ米大統領の言葉とは裏腹に、無下に円高誘導して、ただでさえ苦しい日本経済を奈落に突き落とすような真似はしないということです。

   国力低下の結果ともいえ、あまり喜ばしいことではないのですが、米中対立の状況下では日本の動向が重要となり、そのため政治的に円高が避けられているという状況だと言えるのです。(志摩力男)

志摩力男(しま・りきお)
トレーダー
慶応大学経済学部卒。ゴールドマン・サックス、ドイツ証券など大手金融機関でプロップトレーダー、その後香港でマクロヘッジファンドマネジャー。独立後も、世界各地の有力トレーダーと交流し、現役トレーダーとして活躍中。
最近はトレーディング以外にも、メルマガやセミナー、講演会などで個人投資家をサポートする活動を開始。週刊東洋経済やマネーポストなど、ビジネス・マネー関連メディアにも寄稿する。
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