ドル円相場を決めているのは米国だ
とはいえ、トランプ政権はドル安を望んでいるはずです。1ドル=105円のドル円相場は十分に安いのでしょうか――。米財務省が毎年出す「為替報告書」には、円は20%以上割安(25%とされた年もあります)と指摘されています。米当局の本音としては、ドル円は現状よりも20~25%下落したところ、つまり現状108円から考えると81~87円前後が米財務省の考える適正レベルとなります。
では、どうして円高とならないのか。ファンダメンタルズ的なことを言えば、日米の成長率、成長期待の違い、金利差、経常収支が黒字でも貿易収支はほぼ均衡していることなどがあります。また、政治的には日本政府が円高を望んでないという理由があります。
これまでの歴史を振り返ると、日本政府がいくら円高を避けたいと思っていても、米国政府の圧力によって円高にさらされてきたという経緯があります。代表的な例では、1993年2月19日、当時のクリントン政権財務長官であったロイド・ベンツェン氏が「I`d like to see a stronger Yen(円高になるのを見たい)」と発言したことが挙げられます。その2年後、円は80円へと急騰しました。
日本政府には為替市場をコントロールする政治力はありません。その力は、覇権国である米国にあるのです。すべては米国の意思です。
では、なぜ今、円高にならないのでしょう。おそらく、かつての日本は米国の「経済的仮想敵国」であったのですが、それが今や中国が仮想敵国となり、日本は重要な同盟国、言い方を変えれば、保護すべき国へと「ポジション」が変わったからではないでしょうか。
かつて冷戦構造が日本の台頭を生んだと言われていた時期があります。ソ連を中心とした共産主義陣営の勢力が強く、たくさんの国で共産主義革命が起こりました。その流れを止める必要性もあり、日本という資本主義成功モデルが必要だったのです。ドル円は360円というかなりの円安レベルで固定化され、米国は市場を開放し、日本企業は米国という巨大市場で大成功を収めました。もちろん、日本企業の努力もあるのですが、それを妨げなかった米国の国策がありました。日本は保護されるべき国だったのです。