6割を超える病院が赤字
著者や夫が開業を目指したのは、培った診療スキルで思い切り勝負をし、患者一人ひとりにじっくり向き合い地域医療に貢献しようと考えたことがまず一つ。そして、努力に見合った豊かな収入を得ることや、多院展開してビジネスとして大きな成功を果たすことを考えていたからだ。
「人まかせ」にして開業にこぎつけても、その後の経営は、医師やその家族らなどで行わなければならないが、その段になって、勤務医時代に分からなかった「開業医が背負うリスク」がどっと襲い掛かりマネジメントしきれずに休診に追い込まれるケースも少なくない。
代表的なリスクはスタッフをめぐるトラブルという。スタッフ同士の間で、スタッフと医師との間でさまざまないざこざが発生する。それがこじれて「スタッフが急に退職してしまうケースは頻繁に耳にする」と著者。診療に忙しい医師はスタッフの穴を手当てすることもままならず、残ったスタッフには無理な業務が強いられる。このことがまた新たなトラブルのタネとなり、残ったスタッフもいなくなるという事態にもつながりかねない。
スタッフをめぐるトラブルばかりでなく、患者の来院が思うように伸びないなどカベに当たっても、ビジネスに疎い医師ではなかなか妙案を出せずに経営は悪化の道に。本書で引用されている2015年公表の民間調査会社データによると、調査した2万5179の病院・診療所のうち32.3%が赤字経営、18年に行われた医療3団体による調査だと、医業利益では6割を超える病院が赤字だった。倒産医療法人の数も増加しているという。