本は日用品。だから毎日売ってます――。話題の女性にフォーカスする新感覚ドキュメント、フジテレビ系の「7(セブン)ルール」にも登場したカリスマ書店員の「本を売る技術」とはなにか?
型破り書店員の新井見枝香さんは、わさわさっと本を選んで、レジにどんと置く。
本書「本屋の新井」(講談社)は、斜陽となりつつある出版業界の先端である書店には、何ができるかを自問自答した一冊です。本屋という空間を表現する、巧みな文章。書かれているコンテンツのおもしろさ。非常に興味深い内容です。
「本屋の新井」(新井見枝香著)講談社
書店員に求められる所作
書籍の陳列は大きく3つの方法に分かれます。平積み、面陳、棚差しです。「平積み」とは表紙を上にして陳列する方法。売れ筋や新刊が中心になります。「面陳」とは、本を立て表紙を見せる方法です。「平積み」「面陳」に漏れた本は、「棚差し」によって、棚で背表紙を見せて陳列する方法がとられます。
これら、陳列の展開を一手に任せられるのが書店員です。名もない著者の本をベストセラーに導くなど、売る力の強い書店員は「カリスマ書店員」などと呼ばれます。
店員の棚整理には、平積みの一番上の本を、時折持ち上げてみる仕事があります。本来の平積みの上に、1冊だけ別のタイトルが載っていることがあります。正当な権利を与えられて、そこに積まれた本たちは、 誰かが間違えて戻した本の下敷きになり、憐れにもじっと気付かれるのを待っているのです。勘がいい書店員はすぐにわかるようです。
なかには貴重なサイン本の上に、そうではない本が重ねられて、サイン本が誰にも気づいてもらえない状態になってしまうことがあります。これを、新井さんは「バーガートレイ状態」と呼んでいます。
新井さんは、
「セルフサービスのハンバーガー屋は、トレイを自分で返却場所に戻す、 というルールがある。それを破るとどうなるか。混雑しても、その席だけは空席であることに気付いてもらえない。店内にお客様がひとりもいなくなった後、事態に気付いた店員は、相当なショックを受けるだろう。店内は満員で、表にも行列ができていたのに。その席だけは回転率が最悪だ」
と。
「バーガートレイ状態」を引き起こしたお客さまも多くの場合は、悪気がないはずです。書店員は本日の売上げを賭けた、神経衰弱のような棚整理に邁進していきまます。