「メザシの土光」もびっくりの超質素な資産家
この時は、まだ賞金額もノーベル賞を下回り、受賞対象者もアジア、韓国内レベルだったようだ。それが本家を上回る構想になったわけだが、イ・ジョンファン氏とはいったいどんな人物か。
多くの韓国紙の報道をまとめると、1923年生まれで現在96歳。1942年に日本の明治大学商経科に留学した。「日本人を越えるには日本人より勉強しないといけないと考えたから」だという(中央日報 2019年8月5日付)。しかし、太平洋戦争末期の1944年に強制徴集、関東軍に配属され、ソ連軍と対峙した満州に送られた。
九死に一生を得て戦後、三栄化学グループを立ち上げ、一代で財を成したが、生活は質素倹約そのもの。飛行機もエコノミークラス、会社や財団の重要なパーティーでも花輪を飾らず、賓客にふるまう食事もイ・ジョンファン氏の好物でもある1万ウォン(約930円)以内の「ジャジャン麺」(編集部注・日本でいう肉味噌をかけたジャージャー麺)が多い。なんだか、昭和の大財界人「メザシの土光」こと、故土光敏光・元経済団体連合会会長を思わせるエピソードだ。
こうして貯めた金は、教育財団など特に教育方面の社会還元に多く使った。東亜日報(2012年5月12日付)「社説:医学部や法学部の学生には、自分の奨学金を払うな」が、イ・ジョンファン氏の人柄を表す教育観を紹介している。
「イ・ジョンファン氏は(奨学金を与える)学生の選抜に明確な哲学を持っている。法学部や医学部のような実利的学問よりは、基礎学問を中心に支援している。なぜなら、科学英才らがなりふり構わず医学部に、文科秀才らが法学部に詰め掛けている世の中だからだ。出世や安定的職業を目標にしている学生らは、自費で勉強すればいい。夢や情熱を持って、国に貢献できる人を育成するという哲学だ」
出世のために医学部や法学部に行く学生には、絶対に奨学金を与えるな、というのであった。そこには、激烈な受験競争社会の韓国では、基礎学問がおろそかになっているから日本のように科学系のノーベル賞受賞者が出てこないという思いがあり、今回の「韓国版ノーベル賞」構想につながっている。