百貨店大手の三越伊勢丹で、系列百貨店のターンアラウンド(事業再生)に力を注いできた株式会社スタジオアルタの嶋田正男社長が、現職に転身したのが2017年10月。当時、7億円超の累積赤字を抱えていた同社を、19年に黒字経営に蘇らせた。
「ぜひ、やらせてください」と二つ返事で引き受けたものの、そこまでの「航海」が順風満帆であったわけではない。「失敗も多く、浮き沈みの激しいキャリアでした」と振り返る。そんな苦労人の、嶋田社長のオススメの一冊が、これだ。
暑中見舞いの挨拶文に引用した樹木希林さんの言葉
嶋田正男社長は、つらい時ほど「本はたくさん読んでいます」と話す。
ふだんから、感動した本や日々出会った人の言葉を手帳にメモすることを、日課としているそうだ。
最近、一番感動した言葉は、1年前の9月に亡くなった女優、樹木希林さんの著書「一切なりゆき」にあった
「おごらず、他人と比べず、おもしろがって平気で生きればいい」
という一節。
「社名のALTAの語源でもある『ALTANATIVE』な思想に繋がるものがあり、気に入って、恩人やクライアント様に向けた暑中お見舞いのご挨拶文の中にも書かせていただきました」
と、明かす。
脚本家で小説家の和田竜さんの、中世日本の村上水軍を題材にした「村上海賊の娘」は、嶋田社長の大切な一冊だ。
「瀬戸内海を舞台にした本ということもあり、愛媛の松山三越に出向していたときに、何度も読みました」
「この本の海賊の娘のセリフに、『決して勝負を捨てぬ者だけが勝ちを得る』があるのですが、これは私の人生のモットーになっています。
困難にぶつかることよりも、人に裏切られることよりも、つらいことよりも、悲しいことよりも、もっと恐ろしいのは、あきらめてしまうこと。そこですべてが終わってしまうから」
そう、心に刻んでいる。
歴史上の人物で一番好きな人は、織田信長。なるほど。嶋田社長はいかなる場面でも物事を前向きに考え、「切り拓いていく」志をもつ人なのだ。
プロフィール
嶋田 正男(しまだ・まさお)
スタジオアルタ代表取締役社長
1987年早稲田大学社会科学部卒。伊勢丹(現三越伊勢丹)入社、伊勢丹新宿店・支店地方店のバイヤー(婦人靴)に従事。三越・伊勢丹の経営統合後はHDS地域店舗事業部で三越伊勢丹の統合、全国のグループ会社の支援業務。2014年4月、苦戦中の松山三越に志願し出向、伊勢丹出身初の取締役統括部長に就任。16年に伊勢丹浦和店営業統括部長、IMH(MIグループ関連会社)を経て、17年10月から現職。
1964年生まれ、栃木県日光市出身。