「慰安婦をからかっている」との批判で、ユニクロのCMが韓国内で中止に追い込まれたが、韓国の憤りは収まっていない。
国会でも問題になり、韓国政府はユニクロの新規出店を規制する「鉄槌」を下す動きに出ようとしている。いったい何が怒りを買ったのか。韓国紙を読み解くと――。
CM中止だけでは収まらなかった韓国の怒り
問題になっているのは、2019年10月1日に世界中に公開した、ユニクロの人気商品フリースの25周年をアピールするCM動画だ。CMは15秒ほどで、98歳の白人女性が、13歳の黒人少女から「私の年くらいの時にはどんな服を着ていたの?」と聞かれ、「まさか、そんな昔のことは覚えていないわ」と答える内容だ。
セリフはすべて英語だが、韓国語の字幕では「80年も前のことを覚えているかって?」という意訳がつけられた。日本語版字幕にはなかった言葉だ。80年前といえば、日本の植民地時代にあたる。このため、意図的に表現を変え、韓国人慰安婦を「忘れろというのか!」「冒とくしている!」と一部の市民団体が猛反発した。
ユニクロ側は「いかなる政治的、宗教的な事案、信念、団体とも関係はない」とする声明文書を発表したが、韓国メディアが一斉に「慰安婦侮辱論争」と報道。韓国内でのCM中止に追い込まれた。
だが、ことはそれだけで収まらなかったのだ。憤りの火の手は、市民レベルから韓国政府と国会にまで広がった。
中央日報(2019年10月21日付)「ユニクロの広告に...韓国中小ベンチャー企業長官『非常に腹立たしい』」がこう伝える。
「朴映宣(パク・ヨンソン)中小ベンチャー企業部長官は10月21日、『慰安婦被害者冒とく』という批判を浴びたユニクロの広告について、『非常に腹が立つ』とし『文化体育観光部や放送通信委員会など関連部処と相談する』と明らかにした」
パク長官はこの日、国会の委員会で無所属の李勇周(イ・ヨンジュ)議員らから「企業が、韓国内で国民感情や歴史を否定する形で営業すれば、国家として断固たる措置があるべきではないのか」と追及を受けた。イ議員は「広告を取り下げた状態だから問題にしにくいという趣旨なら、このように叫んだ後にやめるような行為が繰り返される場合、政府は何もできないということか」と激しく質問した。
そこで、パク長官は「国家が何もできないという形で話したのではない」と述べ、政府部内のあらゆる関係機関と相談して、なんとかユニクロに思い知らせる方策がないか検討してみると答弁したのだった。
ユニクロ、不買運動が落ち着いた矢先に再び苦境
その結論が出るのは早かった。朝鮮日報(10月23日付)「韓国を侮辱したユニクロ...CM中断に店舗規制まで『鉄槌』」が、こう伝えている。
「国会で、ユニクロを事業調整の対象店舗に含めるべきという主張が提起された。パク・ヨンソン中小ベンチャー企業部長官は『ユニクロを運営するエフアールエルコリアは、我が国の大企業系列社だ』として『事業調整対象店舗に該当する可能性があると考える』と述べた。エフアールエルコリアの出資比率は日本の本社のファーストリテイリングが51%、ロッテショッピングが49%となっている」
事業調整制度とは、大型流通企業の事業拡張から中小商工業者を保護する制度の一つだ。特に、路地裏の商圏を守るための紛争調整制度で、大型流通企業が新店舗を作ろうとして、既存の中小店の存立を脅かす可能性が出て紛争が起きた場合、中小ベンチャー企業部が調整に乗り出す。そして、新店舗を「事業調整対象店舗」に指定し、出店を規制することが可能になる。エフアールエルコリア(韓国ユニクロ)は、韓国企業がほぼ半分出資しているので、規制対象の大型流通企業に該当するという論法だ。
朝鮮日報は、こう結んでいる。
「ユニクロは最近、国内に新たに7店舗をオープンすることを決め、来年度の新入社員の採用に乗り出すなど事業の正常化に注力してきた。しかし、回復傾向もつかの間、落ち着きつつあった不買運動の熱気が息を吹き返し、再び苦境に立たされた。仮にユニクロが事業調整の対象に選ばれれば、今後の店舗拡大などに待ったがかかる可能性がある」
(福田和郎)