日本は観光立国を目指しており、インバウンドと呼ばれる外国人観光客の動向がすでに景気のキーファクターになっている。また、少子高齢化で不足する労働力を補うのは外国人労働者であり、国内では「内なる国際化」に向かって進んでいる最中といえる。
企業にとってこれからは、本書がタイトルに掲げているように「会社成長のカギは外国人材活躍だ!」と考えるべき時代なのだ。
「会社成長のカギは外国人材の活躍だ! すぐに役立つ3つの基本と実例10」(グローバル人材キャリア支援協会著)双葉社
進む一方の「外国人依存」
インバウンドをめぐっては、日本との関係が冷え込んでいる韓国からの訪問客が減少しているものの全体として好調で、東京オリンピックが開かれる2020年に、その数を4000万人とする目標は変わっていない。その5年後には大阪で万博が予定されており、20年以降も継続してインバウンド需要に対する取り組みは強化されることはあっても弱まることはなさそうだ。
インバウンドが注目を集めるようになったのは、2015年2月、中国の正月である春節に同国から観光客が大挙して日本を訪れたときだ。デパートや量販店などで高額商品を大量に購入する「爆買い」が注目を集めた。「爆買い」は、中国の政策措置もあってその勢いをひそめたが、国内のあちこちではなお、中国人をはじめ外国からの観光客が、デパートや量販店ばかりかドラッグストア、スーパー、コンビニエンスストアで買い物をする姿がみられる。
本書でも指摘されているが、中国人客の「爆買い」が見られたころと前後して、日本の労働人口の不足が顕在化、小売店や飲食店ばかりか農業などの産業の現場でも外国人の受け入れが拡大し始める。そして、19年4月の「出入国管理法」が改正。建設、農業、宿泊、介護など14の業種を新たに「特定技能」として、外国人の在留資格がみとめられるようになった。
本書の編者「グローバル人材キャリア支援協会」は、外国人材の育成やキャリア形成の支援を目的として17年に設立された一般社団法人。日本で働く意欲のある外国人の能力発揮と雇用機会の拡充を図りながら「多様性向上による豊かな共生社会の実現」を目指して活動している。「グローバル人材ビジネス実務検定」の実施や、企業や学校に向けてビジネスマナーや外国人との協働をテーマにしたセミナーを日本、中国、台湾で行っている。
先行するデパートと量販店
中国人客による「爆買い」がよく見られたのはデパートと量販店。それが鳴りを潜めたころは経営への影響も懸念されたものだが、インバウンドの買い物熱は依然高く、デパートと量販店では、外国人材を積極的に採用してインバウンド需要の取り込みに努めている。日本人の労働力不足を補うことにもなり効果は単体にとどまらない。本書では、三越伊勢丹の三越銀座店と、ビックカメラの例が紹介されている。
この両店に限らないが、とくに店舗で客と接する店員の場合、難しいのは日本流にこなすことだ。三越、ビックとも、先輩店員がしばらく付き添って研修を行う。三越では、店がある銀座の飲食店や病院、駅などの周辺施設への案内も必須。三越銀座店によれば、こうした丁寧なアテンダントを地道に行うことで外国人客の間では「何か困っていることがあれば銀座三越に行けばすべてわかる」といった口コミが広がっているという。
ビックカメラはインバウンドの需要の高まりを感じた15年ころからまとまった人数の採用をスタート。中国、韓国のアジア系を中心に、本書によると、100人強が働いている。SNSで外国人スタッフの存在が知れ渡り、その外国人スタッフを名指しで同国の客が来店するケースも。スタッフが信頼を得て客がリピーターになる確率も高い。
「内なる国際化」で外国人スタッフが貢献するのは接客、客集めばかりではない。ビックカメラによると、外国での流行などをキャッチしやすくなり商品の仕入れや配置に役立てられるという。日本ではあまり販売実績がなくても、国によって大流行しているというアイテムも実は少なくない。そうしたトレンドをとらえてビジネスの活性化につなげられるというわけだ。
この「内なる国際化」はまだ緒についたばかりで課題もある。ビックカメラでは、スタッフが多国籍化し、マネジメント側で外国語が分からず「正しい接客ができているか把握できない」点をあげる。ウズベキスタン人の店員がウズベク語で同国の客に応じているときは日本人上司が理解できず説明が正確か確認できなかったという。また、中国人店員が多いため、春節で休暇希望が集中。店側にとってもかき入れ時であり、毎年のように頭をいためているそうだ。
「会社成長のカギは外国人材の活躍だ! すぐに役立つ3つの基本と実例10」
グローバル人材キャリア支援協会著
双葉社
税別1400円