産休中に会社の福利厚生制度を利用して旅行したら、上司から「同僚に迷惑をかけているのによく行けるな!」と嫌味を言われた、という女性の投稿が大炎上している。
「上司の言うとおり。非常識だ」という批判が大勢だが、「勇気のある女性だ。福利厚生制度を使うのは正当な権利で、上司の発言はマタハラだ」という共感の意見も少数だがあった。
産休中は申し訳なく過ごさないとダメなのだろうか。専門家に聞いた。
「みなキミの穴埋めで頑張っているのに、よく旅行に行けるな」
話題になっているのは、女性向けサイト「発言小町」(2019年10月4日付)に載った「産休中に会社の福利厚生制度を利用して旅行に行くのは非常識?」というタイトルの、次の投稿だ。
「産休中に勤め先の会社の福利厚生制度を利用して、会員制リゾートホテルに割引価格で宿泊したのですが、組合から手続きの件で私の部署に問い合わせがいき、上司から連絡がてら嫌味を言われました」
上司は、「人手が足らずに皆残業しながら穴埋めをしているのに、産休をもらっておきながら、さらに会社の福利厚生まで使って旅行に行くのは疑問だ。駄目かどうか以前の話として、そういうことができるのが問題だ」というのであった。投稿者は、こう不満をぶつける。
「旅行は、産婦人科の先生から1泊程度で疲れない範囲でなら全然問題ないと許可を得ています。権利を正当に使っただけなのにモヤモヤしています。産休中に会社の保養所を利用するのは非常識なのでしょうか。産休中は家でおとなしく過ごしていないといけないのでしょうか」
この投稿に対しては、7割近くの人が「非常識だ」と反発した。
「正当な権利の行使でしょうが、あなたの休みのフォローしているのは同僚です。お互い様だから仕事の穴埋めするのは想定内ですが、遊びに行く穴埋めは面白くはないはず。自分の分も頑張って働いている人にはバレないようにするのが人情、配慮でしょう。割引価格でいくら節約できたか知りませんが、育休も取るのでしょうから、失ったもののほう方が大きいかも」
「まず、私ならその方法で旅行には行きません。『妊婦さんは優雅だこと』とか『遊んでいられるんだ』とか、そんなふうに思う人は必ずいます。それでも権利だから構わないでしょ、と逆ギレするあなたは社会性を身に付けたほうがよいです」
「産休の目的は『妊婦の健康』だよね、『遊び』じゃないよね。福利厚生の目的外利用だよ。『遊び』に行くのだったら年次有給休暇をとれよ、だよ。産婦人科の先生から全然問題ないといわれたとかは、あなた個人の問題で、同僚にはどうでもいい話だよね」
「変な同調主義。だからワーカーホリックって言われる」
一方、「福利厚生制度を使うのは正当な権利だ」「上司の発言こそマタハラだ」という応援の意見も3割ほどだが、寄せられた。
「会社が契約している施設だし、利用できて当たり前。産休中に『そこを利用するな』なんておかしな理屈は通らない。忙しい、人手不足、残業もしている......から利用するのはおかしい? だったらそんなリゾート施設と会員契約なんてするな、と私は言いたい。産休中でダメなら有給使っての利用もダメなはず。『ナヌ!キミ、有給使ってここ利用したのか? みんな忙しく残業しているのに...』となります」
「みんな変な同調主義。日本人はワーカーホリックって言われるゆえんですね。産休って申し訳なくして過ごさないといけないの?」
「そんな忙しい職場なら、なおさら産休中くらいしか行けないんじゃないの。私は、慢性的人手不足の職場にいます。そのせいか、みんなあなたのような勇者に好意的ですよ。今のうちにゆっくり楽しんで、の精神です。しんどい職場だからこそ、一時でも楽しんで、また戻ったらバリバリやってほしいですね」
「上司の態度、これこそマタハラだ。重箱の隅って、つつこうと思うといくらでもつつけるものですね。産んだ後だと旅行にはなかなか行けないから、今のうちに行っとこうという気持ちも分かりますよ」
「産休は職場に迷惑をかけている存在なのか?」
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、この「産休中の福利厚生制度を利用した旅行は非常識?」論争の意見を求めた。
――今回の投稿に対する反応を読み、率直にどんな感想を持ちましたか?
川上敬太郎さん「投稿内容の端々に、複数の認識ズレが混ざり合ってしまっている印象を受けました。(1)上司の中の常識感、(2)職場の雰囲気、(3)労働者の権利、という3つの観点から整理したほうがよいと思います。そのものズバリの産前休暇ではなく、有給休暇の調査ですが、働く女性にとって『どうすれば有休が取得しやすくなるか』を調べたデータがあります」
「『休んでも業務カバーできる体制をつくる』『会社が有給取得を促進する』『法律で取得を義務化する』といった様々さまざまな提案の中で、最も多かったのが『取得しやすい雰囲気をつくる』でした。体制や法律ではなく、雰囲気が大事なのです。
逆にいうと、取得しづらい雰囲気こそが、休みの取得の最大のネックになっていることになります。今回の投稿を見る限り、投稿者さんの職場は、産休を含め、休みが取りづらい雰囲気があるように感じました」
――投稿者を批判する人の多くが、「産休は職場に迷惑をかけている存在だ」という前提があり、「それなのに遊ぶなんて非常識」という反発があるような気がします。こうした考え方についてはどう思いますか。
川上さん「産休は職場に迷惑をかけている、という雰囲気があれば、産休は取りづらいと思います。逆に、産休が取りやすい雰囲気であれば、産休中にどう過ごすかに目くじらを立てることもないと思います。ただし産休は、安心・安全に出産できるよう母体を守るための休業なので、職場への迷惑云々ではなく、旅行という行為が母体に負担をかける心配をふまえて『非常識』と捉える人もいるのではないかと考えます」
「産休が取りやすければ福利厚生を使っても問題にならない」
――会社の福利厚生制度を利用したことも、批判者を大いに刺激しています。「旅行に行くなら会社にわからないようすべきだ」というアドバイスもありました。産休中に会社の福利厚生制度を利用するのはいけないのでしょうか。
川上さん「やはり、産休は職場に迷惑をかけるという雰囲気が前提になっている話だと思います。産休が取りやすい雰囲気であれば、福利厚生制度を使うことはあまり問題にならないでしょう。問題は福利厚生制度を使ったかどうかではなく、職場に迷惑をかけているのに、同僚に知られる状況で旅行に出かけたことなのだと思います。母体を守るべき期間に旅行に行くことに対しては、様々さまざまな意見・考え方があると思います。しかしそれは、福利厚生制度を利用するかどうかとは別の論点です」
――なるほど。応援エールを送る人の中には、「上司の発言はマタハラに当たる」とする意見もありますが、この点はいかがですか。
川上さん「投稿者さんが精神的に追い詰められる印象を受けた場合には、マタハラに該当する可能性もあると思います。特に妊娠中は心身ともに不安定になりがちです。『産休は職場に迷惑をかける』という雰囲気を前提とした上司の発言だと思いますが、投稿文を見る限り、上司の中の常識感を押し付ける伝え方になっているように見受けられます」
――産休中はどう過ごしたらよいのでしょうか。
川上さん「安心・安全な状態で赤ちゃんを産むことを最優先に考えて過ごすことが大前提です。そのうえ上で配慮すべきは、自分が所属する職場の雰囲気に合わせた振る舞いだと思います。『産休は職場に迷惑をかける』という雰囲気の職場であれば、投稿者さんの振る舞いは当然軋轢を生みます。それでも敢えて、そんな雰囲気に疑問を呈し、一石を投じたいという意図的な振る舞いだったとすれば、必ずしも否定されるものではないでしょう。しかし、そういうつもりがないのなら、雰囲気に合わせた振る舞いをお勧めオススメします」
(福田和郎)