ハッキリ言ったら、社員が辞めてしまうじゃないか!
一般的に「危機感が足りない」という言葉で表現される状況は、まさに今必要な行動をしない時に「失うもの」の認識がないという状態のこと。
そうです。G社の社員たちは危機感が足りない状態にあったから、社長が提示したビジョンへの反応が薄かったと言えるでしょう。
「倒産という言葉も厭わず『失うもの』をより具体的に社員に提示しましょう」。私は社長に進言しました。しかし、社長は「そこまでハッキリ言ってしまって、辞める社員がたくさん出ることになりはしないだろうか」と、「失うものの」提示を躊躇しました。 「社長、今これを言わなければ、会社は確実に倒産に向かうでしょう。今これを言えば、たとえ社員が半分になろうとも会社の存続は可能ですよ」
T社長は腕組みをして、しばらく押し黙ったままでしたが、ようやく口を開き「わかりました。私の言葉で具体的な危機感を社員に伝えましょう」と、私の進言を受け入れてくれました。
まさに、プロスペクト理論どおりの行動選択をT社長自身が、身を持って示してくれた瞬間です。どうにかして行動を起こさせたいと思う時に、プロスペクト理論が有効であることの証明でもありました。
G社はその後も紆余曲折ありましたが、今も健在。業績はようやく回復基調にあります。(大関暁夫)