インバウンドは増えればいいだけではない リピーター時代の経済効果のあげ方

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   猛暑に見舞われたこの夏、観光にはまったく不向きな熱波の中でも、東京をはじめ日本の各地には外国人客の姿が多くみられた。小泉政権時代の「観光立国」宣言で増え始めた外国人客は2018年に3000万人を突破し、東京五輪・パラリンピックが開かれる2020年には4000万人の訪問者が期待されている。

   街や名所の様子からは、いよいよ「観光立国」実現前夜のようにもみえるのだが、本書「新世代の観光立国 ―令和世代への課題と展望」(交通新聞社)によれば、じつは経済効果の点ではまったくお寒い状況らしい。いわゆるインバウンドの急増に、受け入れ態勢が追いついていないことが原因。さて、どうすればいいだろうか――。

「新世代の観光立国 ―令和世代への課題と展望」(JAPAN NOW 観光情報協会編著)  交通新聞社
  • 近年は「花見」もインバウンド向け観光資源になっている
    近年は「花見」もインバウンド向け観光資源になっている
  • 近年は「花見」もインバウンド向け観光資源になっている

観光立国の旗振り役

   編著者である「JAPAN NOW 観光情報協会」は、2003年の小泉純一郎首相の「観光立国」宣言を受けて、日本鉄道建設公団の松尾道彦総裁、日本空港ビルデングの丹羽晟社長(いずれも当時)らを中心に「日本全国に観光立国の精神を啓蒙する目的」で設立され、東京都知事から特定非営利活動法人の認証を受けて発足した。

   「JAPAN NOW」の名前は、1985年からホテルの客室に置かれた日英対訳の年間誌「JAPAN NOW」などの名称を受け継いだという。

   本書は、同協会の大島愼子理事長のほか、元JR東海社長の須田寛氏やエッセイストの近藤節夫氏、JTBグループの各社で社長を務めた北村嵩氏など協会理事を務める各氏らとの共著として「令和の時代に観光はどうあるべきか」をテーマにまとめられた。論文調で硬い感じがするが、最近はインバウンド客が身近な存在になっているだけに、内容はわかりやすい。

   近年は街や電車、バスの中で、気が付くと「外国人増えたなあ」と感心する人が多いに違いない。10年ほど前に比べると4倍にもなっている。日本国内の観光は、日本人観光客が8割強を占めるのだが、外国人客の場合は滞在日数、消費額、行動範囲がはるかに大きく「仮に延べ観光量ともいうべき指標があるならば、人数比をこえる約3割近いシェアをすでにもつとみられる」という。

   外国人客がもたらす経済効果のスケールは大きく、その増加は、国内観光に大きな構造変化をもたらしつつあるといえる状況なのだ。

   年を追って増えるインバウンド客だが、増加の原因の一つは、再訪客(リピーター)が増していることがわかってきた。すでに半数以上がリピーターとみられるという。このため政府は、観光数値目標のなかでリピーターを6割と推定。20年の「4000万人」のうち2400万人が該当するとしている。

「観光資源の価値逓減につながる」

   リピーターは観光経験を積んでいるから、そうしたお客にとっては「観光資源の価値逓減につながる」。「逓減」が続いて、なくなってしまえば訪問の動機がなくなるわけで、日本にとっては「持続的観光を展開するためには観光の中の中核ともいうべき観光資源のあり方、とくに従来型の観光行動、手法などに抜本的に見直しが求められることになる」のが道理。それを「オールジャパン」で考えよう、というのが本書の主張の一つだ。

   このことに加えて、宿泊施設の不足や公共の交通機関を含めて、必ずしも外国人客にとっては移動が容易とはいえず、観光資源の手入れとともに、観光立国のためにはまだやらねばならないことが多いのだ。観光は日本の「基幹産業」とさえ、いわれるようになっている。

   ところが、観光資源の手入れや維持、リニューアル、あるいは宿泊、移動の利便性向上などの点からは「観光産業は充分にその機能を発揮しているとはいえない」のが現状。2020年の外国人の観光消費額の国の目標は8兆円と設定しているが、18年は4兆5000億円どまり。「伸びは低調で目標達成は不可能」とみられている。外国人客1人当たりの消費額は2018年に、0.9%減少した

   こうした問題を解決するため、まずやらなければならないのは「観光産業の近代化・効率化」。観光産業では中小企業が多く、小さな事業所がそれぞれに営業を行い、このため経営の近代化に立ち遅れがみられるケースが多いという。中規模以上の企業を中心にして事業規模の適正化を図るほか、IT技術の導入などで経営管理システムの近代化や企業間連携強化に努めることが求められる。

   宿泊、交通などの観光インフラの整備は、次世代「観光立国」に向けた大きな課題の位置づけ。宿泊施設のひっ迫は、客らのムダな移動を発生させ、その経験がリピートを断念させ、あるいは客の消費の機会を奪う。多角的に考え計画する必要がありそうだ。

   「交通インフラの整備拡充」は、すぐに新規に設けられるものではない。名所が集中する観光地などでは、客が広域分散するようルートを検討したり、あるいはグループごとのツアーを編成したりするなどが考えられる。

   さまざまな産業で問題となっている人手不足には、タイムシェアリング方式の採用、高齢者の雇用、ロボットを使ったマンマシンの検討が促されている。

「新世代の観光立国 ―令和世代への課題と展望」
JAPAN NOW 観光情報協会著
交通新聞社
税別1500円

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