NHKで放送されている語学講座番組のなかで、ラジオ講座の「実践ビジネス英語」は、史上最長記録を更新中だ。
講師の杉田敏さんは1987年(当時は「やさしいビジネス英語」)から、途中に一時降板をはさみながら、現在も担当を続けている。その著書「NHKラジオ実践ビジネス英語 現代アメリカを読み解く」(DHC)は、この番組で複数回登場した、ビジネス上のキーワードといえる語句を集めてアルファベット順に解説しているほか、企業家、ジャーナリストでもある杉田さんの視点を生かした新語解説が随所に盛り込まれている。
「NHKラジオ実践ビジネス英語 現代アメリカを読み解く」(杉田敏著)DHC
「Internet」から「internet」に
米国でかつてあったドラッグ文化の盛り上がりで、high(高い)のような基礎的な単語が高揚した状態の表現に使われ、grass(草)がマリファナを意味するようになった。その現象は一部にとどまらなかったことから、新しい意味として辞書にも収録されるようになったという。
杉田さんが本書を企図したことの背景には、インターネットの登場後、その普及が進むにつれて若者たちを中心に、それ以前とは違った意味で語句を使うようになったことがあるという。本書の「はじめに」で述べている。
インターネットを表す「internet」は、登場後しばらくは共通して固有名詞として扱われ、文字になるときは必ず大文字で始まる「Internet」だったが、普及が進んだいまでは、普通名詞として扱うメディアが増えているという。
ブログやSNSの広まりで、使い方が変わったのは「like」。主には「好む」「好き」という動詞の用法が知られ、前置詞、接続詞、副詞の用法もあるが、インターネット時代の新用法は「いいね」だ。書き込み対して、賛同や承認、感謝の意思表示に使われている。
また、ほとんど名詞としてしか使われていなかった「friend(友人)」は、SNS上では「友だちになる」という意味で用いられ動詞化。「友だちになる」という動詞「befriend」の存在が脅かされそうだ。
インターネットなどデジタル系の進化と同じように英語に変化をもたらしたのがジェンダーの問題だ。日本語では「紳士、淑女」の訳が定番となっているためか、古くさい言葉の印象がある「ladies and gentlemen」は英米などでは、スピーチやアナウンスのツカミとして普通に使われる。ところが近年は、英米で本当に前時代化したようで、ロンドンとニューヨークの地下鉄では乗務員が乗客向けのアナウンスに使うことが禁止された。「LGBT(lesbian, gay, bisexual, transgender)という略語で表される性的少数者の権利を尊重しようという動きを反映したもの」だ。
「LGBT」の略語は定着したようだが、最近では新たに「LGBTQ」というものも米メディアなどに登場している。「Q」は「Questioning(クエスチョニング)」「Queer(クイア)」を表すとされる