情報はすべて「フェイク」だ! そう感じる人のための「騙されない」工夫

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   トランプ米大統領は、2016年の大統領選の期間中からしばしば「フェイクニュース」という言葉を連発。当選とともに、その言葉も社会に定着したように感じる。

   その定義はというと、「意図的に捏造され、ネットで拡散......」のように理解されているが、それはインターネットに限ったものではないし、そもそも情報には「本当の~」とか「真の~」などと呼べるものはないというのが、本書「ネットで勝つ情報リテラシー」(筑摩書房)の主張だ。それでは、果たして情報とはなに? その正体がわかると情報リテラシーが身につけられるというのだが......。

「ネットで勝つ情報リテラシー」(小木曽健著)筑摩書房
  • 目撃したものを伝えるのは三者三様。「本当の~」「真の~」などはあり得ない
    目撃したものを伝えるのは三者三様。「本当の~」「真の~」などはあり得ない
  • 目撃したものを伝えるのは三者三様。「本当の~」「真の~」などはあり得ない

プロ野球のビデオ判定でわかる「人の脳」の曖昧さ

   人は何かを目撃したときに、どうやって伝えるか、どう説明すればうまく伝えられるかを考える。情報は発信の段階から、伝える人の個性がにじみ、その人特有のアレンジが加えられることになる。ときにはバイアスが入り込み、結果的に「驚くほど不確かなもの」になる可能性がある。

   目撃情報を受け取り、認識し、処理するのは、その人の個性豊かな脳であるから「眼球から脳に伝わる『ピュアな情報』」であり得ず、真実とはいえないのだ。

   2018年から、プロ野球では微妙な判定をめぐって「リクエスト」によって行われるビデオ判定制度が導入されたが、これはプレーに関する情報について、より「真実の姿」を知るためのものだ。

   ところが、ビデオで再現されてもなお微妙なプレーは少なくない。ビデオは球場内の大型ディスプレーでもされるが、場内の双方のチームのファンはともに「よし!」などと声をあげ手をたたく。

   「この光景こそ、人間の脳がいかに視覚情報を曖昧に処理しているかの答えでしょう。目の前の光景ですら、本人の欲求や気持ちの偏りに介入されてしまう。ビデオ判定のエピソードは、それが確認できるよい例」なのだ。

   著者の小木曽健康さんはインターネット企業、グリーの社会貢献マネージャー。情報教育部門の責任者として勤務しながら、全国の学校や企業、公的機関などで年間300回を超える講演を行い「ネットで絶対に失敗しない方法」を伝えている。ネットが進化を重ね、情報の本質から必然的に、フェイクニュースがあふれ返っている現実に、経歴、経験を生かして「大人の情報リテラシー入門書」として本書を企画した。

他人の危機救う情報発信も自分のため

   それでは、そもそも人はなぜ情報を発信するのか――。何かを他人に伝えたいからには違いないが、それは、その他人のためではなく、情報を発信することで自らが得られるなんらかのメリットがあるからという。「決して利他的な行動ではない」

   たとえば、一緒に歩いている同僚の目の前にイヌのフンがあるが、同僚は気づいていないので踏みそうになった。そこで直前に「危ない!」と、ひと言。だが、この情報発信もつきつめれば利他的とはいえない。同僚がフンを踏んでしまえば、靴が残念な状態になり、同僚は落ち込みテンションが下がる。一緒に歩いていた相手としては、靴が汚れた同僚の落ち込みに気を遣うことになり、ストレスに見舞われる。このストレスを避けるためにハタから見れば利他的にみえる情報発信となったというわけだ。

   「情報には必ず、思い込み、偏り、発信するメリットがあり、だからこそ情報は発信され、デメリットがあれば隠蔽される。これは個人に限ったことではない。新聞・テレビなどのマスメディアも同じ」と、著者はいう。マスメディアを構成しているのは、個人だからだ。トランプ米大統領の「フェイクニュース」の指摘も、そこまで考えてのことなのか――。

   サブタイトルに、「あの人はなぜ騙されないのか」と加えられている。しかし、フェイクニュースの見分け方を述べたものではない。野球場のビデオ判定のように、受け取り方しだいで、すべての情報は「フェイク」である可能性がある。問題は、接したニュースや情報が発信された理由や方法を知ること。本書では、カジノを設けることについて、利害関係により、人物ごとの発信の内容が違うことなどに触れながら、「騙されない」ための工夫を解説している。

「ネットで勝つ情報リテラシー」
小木曽健著
筑摩書房
税別820円

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