他人の危機救う情報発信も自分のため
それでは、そもそも人はなぜ情報を発信するのか――。何かを他人に伝えたいからには違いないが、それは、その他人のためではなく、情報を発信することで自らが得られるなんらかのメリットがあるからという。「決して利他的な行動ではない」
たとえば、一緒に歩いている同僚の目の前にイヌのフンがあるが、同僚は気づいていないので踏みそうになった。そこで直前に「危ない!」と、ひと言。だが、この情報発信もつきつめれば利他的とはいえない。同僚がフンを踏んでしまえば、靴が残念な状態になり、同僚は落ち込みテンションが下がる。一緒に歩いていた相手としては、靴が汚れた同僚の落ち込みに気を遣うことになり、ストレスに見舞われる。このストレスを避けるためにハタから見れば利他的にみえる情報発信となったというわけだ。
「情報には必ず、思い込み、偏り、発信するメリットがあり、だからこそ情報は発信され、デメリットがあれば隠蔽される。これは個人に限ったことではない。新聞・テレビなどのマスメディアも同じ」と、著者はいう。マスメディアを構成しているのは、個人だからだ。トランプ米大統領の「フェイクニュース」の指摘も、そこまで考えてのことなのか――。
サブタイトルに、「あの人はなぜ騙されないのか」と加えられている。しかし、フェイクニュースの見分け方を述べたものではない。野球場のビデオ判定のように、受け取り方しだいで、すべての情報は「フェイク」である可能性がある。問題は、接したニュースや情報が発信された理由や方法を知ること。本書では、カジノを設けることについて、利害関係により、人物ごとの発信の内容が違うことなどに触れながら、「騙されない」ための工夫を解説している。
「ネットで勝つ情報リテラシー」
小木曽健著
筑摩書房
税別820円