「専業主婦です。夫から月5万円のお小遣いをもらっていますが、安すぎると思いませんか?」。こんな投稿が大炎上になっている。
「何サマのつもり?うちの旦那だって月5万円以下だよ」という猛反発が大半だが、投稿者の夫が年収2000万円以上だということから、「確かに安すぎる」と同情の声も。
内閣府の試算では「専業主婦の家事・育児労働の対価は年収304万円に相当する」という報告もある。専業主婦のお小遣い(報酬)はどうあるべきなのか。専門家に聞いた。
「夫は年収2000万円超なのに、安いと悲しくなった」
話題になっているのは、女性向けサイト「発言小町」(2019年8月20日付)に載った「専業主婦の小遣い」という題の投稿だ。
「未就学児2人の母親、専業主婦です。夫はかなり多忙な専門職として働いており、ほぼ一人で家事、育児をしています。両実家とも遠方のため、頼れる人は身近にいません。専門職の仕事をしていた時は、自分のお給料から好きなものを買っていたのですが、今は夫に『買ってもらっている』という感覚になってしまい、それがしんどかったため、お小遣い制にしてほしいと伝えました」
そこで夫が提案したお小遣い額が「月5万円」だった。服飾代、化粧品代、友人との外食費、母の日や子供の誕生祝いプレゼントなど全部含む。夫は年収2000万円を超えているというのに...。
「これを聞き、正直、私は安いと思いました。今の誰にも頼れない孤独な育児ははるかに辛いです。なら働けば?というお言葉も頂戴するかもしれませんが、子どもが病気しても誰にも頼れない、また、待機児童が多い地域なので、上の子と下の子が違う園になる可能性が高く、送迎、家事など全て私の役目になり、仕事復帰は難しいのです」
この投稿に対して、「うわっ、高」「贅沢だ」「何サマのつもり」という激しい反発が9割以上あった。
「月1万円で十分です。子供の病気に備えて自宅待機なら化粧も基礎化粧品だけで十分。人妻ですから質素な方が好ましいですよ。同じ理由で服飾費も交際費も使う暇がないでしょう?子連れで高級レストランなんて行きませんよね?」
「専業主婦なら小遣いはゼロが多いのに、5万円ももらえるなんてびっくり。お子さんのママ友たちに『毎月のお小遣い5万円って、安いよね?』と聞いてみてはいかが? その時のママ友たちの表情がリアルな回答だと思いますよ」
「5万円は恵まれすぎでは? 毎日深夜まで働くサラリーマンでもなかなかもらえない額。うちの夫は昼食代込みで小遣い5万円。あなたの5万円には毎日のお昼代も飲み物代も入っていないのでしょう?」
「旦那ケチだね。高額収入家庭の主婦の必要経費は高い」
一方、全体の1割ほどだが、「5万円は安い」と投稿者に共感する意見もあった。
「私は共働きで、月の手取りが40~45万円なので、適当に好きなだけ使っています。5万円なんてあっという間になくなりますね」
「旦那ケチだね。2000万円も収入がある家庭の主婦の必要経費として5万円は少なすぎる。それ相応の出費があるでしょう。それについては、家計簿を出して旦那の納得を得るのがよいと思います」
「年収2000万円超えの夫のワンオペ専業主婦の価値が5万円とは、可哀想に感じます。お金が欲しいわけじゃなく、5万円の価値しかないと言われたのが悲しいんだよね? 最近は、家事代行やベビーシッターのように、家事や子供の面倒をみてくれるサービスがあるから、見積りとってみればどうですか? それを全部夫に見せて交渉してはいかが」
ところで、いったい専業主婦のお小遣いはいくらが妥当なのか。じつは、それを調査したデータがほとんど見当たらない。参考までに、新生銀行グループが毎年発表している会社員の「お小遣い白書」によると、最新データ(2019年6月)では、男性会社員の1か月あたりの平均小遣い額は3万6747円、女性会社員は3万3269円だった。だから、投稿者の「月5万円」という額は、会社員の小遣いの平均よりは高いということになる。
内閣府の試算では専業主婦の報酬は「月25万3000円」
しかし、「月5万円」を専業主婦の「家事・育児労働の報酬」とみると、かなり低い評価になる。内閣府は2013年に「家事や介護・育児、ボランティア活動などの無償労働を貨幣価値に換算する調査」を発表した。それによると、専業主婦の家事・育児は年収304万1000円(労働時間は年2199時間、土日休みなしで1日平均6.0時間)に相当する。毎月の報酬(お小遣い)にならすと、なんと「月25万3000円」である。
その無償労働報酬の内訳は、多い順に炊事116万円、清掃45万5000円、育児42万8000円、買い物39万7000円...... となる。ちなみに、兼業主婦の場合は、年収223万4000円(労働時間は年1540時間、1日平均4.2時間)に匹敵する。こちらは「月18万6000円」に相当するお小遣いだ。
そんなわけで、ひとくちに専業主婦のお小遣いといっても、「安い」「高い」と単純に決めつけるのは難しいようだ。
J-CASTニュース会社ウォッチ編集部では、女性の働き方に詳しい、主婦に特化した就労支援サービスを展開するビースタイルの調査機関「しゅふJOB総研」の川上敬太郎所長に、この「専業主婦月5万円のお小遣いって安い?高い?」論争の意見を求めた。
――今回の投稿に対する反応を読み、率直にどんな感想を持ちましたか?
川上敬太郎さん「月5万円がお小遣いとして高いか否かは、捉え方に個人差があることが前提ですが、一般的には十分な額のように感じます。ただはっきりしているのは、投稿者さんは低いと感じていることです。日々専業主婦として、時に罪悪感も覚えるような思いをしながら頑張っている代償が月5万円と算出されたことが、年収2000万円の夫の財力と照らし合わせて低いと感じてしまうのかもしれません」
「お小遣いの調査ではありませんが、私たちは、もし主婦が仕事をして収入を得たとしたら、そのお金は自分の意思で自由に使うことができると思うかを調べたことがあります。すると、『自分の意思のまま自由に使うことができる』と答えた人が3割、『自分の意思である程度使うことができる』と答えた人が5割いました。夫と相談、あるいは夫の許可を得てからなどと制約を受ける人は2割以下でした。働いて収入を得ているかいないかで、主婦層の金銭的な自由度は大きく変わるようです。それは少なからず心理面にも影響を与えるものと思われます」
夫婦を家庭の共同経営者と考えると、主婦のお小遣いは?
――なるほど。投稿者には専業主婦という立場に関して、「自分の収入で物を買っていない」という鬱屈した気持ちがあるということですね。
川上さん「自らが働いて収入を得るという行為は、人としての尊厳につながる面もあります。自らが収入を得ていないことで、一方的に与えられている、施しを受けている、と感じてしまう人は、鬱屈した気持ちになるのではないでしょうか」
――内閣府が専業主婦の家事・育児労働の対価は年収304万円になると試算しています。回答の中には「家事代行業などに問い合わせて、自分の労働がどのくらいか調べて夫と小遣い額の交渉をしたら」との意見もあります。主婦労働の対価と今回の論争をどう考えますか?
川上さん「とても興味深い意見です。こうした意見の違いの根底には、家庭の収入は誰の収入なのか、夫婦とは何なのか、という考え方の違いがあると感じます。家庭の収入は、夫と妻それぞれが稼いだ分がそれぞれに紐づくという考え方であれば、投稿者さんのご家庭の場合、夫2000万円、妻0円ということになります。専業主婦の家事労働の対価が304万円なのであれば、夫は家事を妻に委託する分、2000万円の収入から304万円を妻に支払う考え方になります。夫婦の間で業務委託契約を交わすようなイメージです」
「一方で、夫婦一体で家庭を運営しているのだから、家庭の収入は夫婦どちらが稼いでも夫婦2人の収入という考え方もあると思います。いわば、家庭の共同経営者のイメージです。その場合は、年収2000万円をどう使うかは夫婦で話し合って決めることになります。当然、お小遣いも夫が妻に『与える』ものではなく、夫婦で話し合い、2000万円の中から夫婦それぞれのお小遣い額を決めることになります。これらはどちらが良いと一概に決められるものではありません。そのご夫婦にとって納得しあえる形が見つかれば、それがそのご夫婦にとっての正解なのだと思います」
(福田和郎)
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