飲料メーカー大手のキリンが実施する早期退職の募集が話題となっている。同社は経営危機どころか、2018年度決算で過去最高益を計上した優良企業であるためだ。
参考リンク:キリンが早期退職を実施、過去最高益なのにリストラ着手の裏事情【スクープ】(ダイヤモンドオンライン2019年9月27日付)
従来、赤字が2期以上続くような企業が結果として早期退職募集を含む、リストラに手を付けるケースが多かった。しかし、近年は必ずしも赤字ではない企業による早期退職の募集や配置転換を実施するケースが目立つようになった。
その背景にあるものとはなにか――。いい機会なのでまとめておこう。
あがり目なし! 激増するヒラ社員の将来は......
黒字企業にリストラを決断させる理由は、二つある。まず、年功序列制度の形骸化が進み、40代以降でも役職のないヒラ社員が激増したことだ。大卒者の6割以上がすでに万年ヒラ社員とのデータもあるほど。
彼らにはベースアップや出世という「あがり目」はもうないから、自然とモチベーションが低下して、現状に甘んじるようになる。
これは彼らが悪いのではなく、そうしたカビの生えたような人事制度をいつまでも使い続ける企業が悪いのではあるが、とにかく企業にとって「やる気のないオジサン」問題は喫緊の課題といっていい。
むしろ、余裕のあるうちに彼らを減らし、優秀な若手を囲い込めるような柔軟な人事制度に切り替えようというのが、現在のリストラの主要な理由の一つと言っていいだろう。
そして二つ目は、政府が社会保険料の引き上げや雇用延長を通じて、社会保障のツケを企業に丸投げし続けている点だ。たった2%上げるだけで大騒ぎの消費税と違い、社会保険料は企業負担分も含めこの20年間ほぼ一貫して上がり続けている。
これから昇給する若手なら(本人は迷惑だろうが)昇給分を削れば済むからいいが、もう昇給しきっている中高年の社会保険料アップは企業には強い負担感だけが残る。
加えて、すでに政府は70歳までの雇用維持を企業に努力目標として課す方針を明記している(高年齢者雇用安定法改正案)。60歳定年も65歳雇用の際もそうだったが、努力はやがて義務化される。
「やる気のないオジサン」を70歳まで押し付けられるのなら、そうなる前に少しでも数を減らすしかない。それが黒字リストラの二つ目の理由である。
要するに、雇用や社会保障で社会が企業に頼りすぎた結果、企業が中高年の流動化に手を付け始めたということだ。
オジサンが早期退職を前向きに検討すべき理由
従来、こうした早期退職募集については「40歳を過ぎてから転職しても条件が下がるだけだから、しがみつくほうがトクだ」的な慎重論が多かったように思う。だが、筆者は以下の二つの理由から、対象となった人には前向きに検討することをオススメしたい。
・会社に余裕のあるタイミングでの早期退職募集は好条件だから
経営危機に際した企業の文字どおりのリストラと違い、黒字リストラにおける早期退職は相対的にかなりの好条件だ。おそらく会社都合での退職金に加え、年収に2年分以上が加算されるはずだ。
企業にもよるが手厚い転職支援プログラムがセットになっていることも多い。働き手不足による空前の売り手市場も考慮すれば、十分検討に値するだろう。
・まだまだ人生、先が長いから
二つ目は、諦めてしがみつくには、人生まだまだ先が長いためだ。そもそも先の「会社にしがみつく」というのは、90年代以前の定年55歳時代の戦略だ。
百歩譲って60歳定年なら機能した戦略かもしれない。たとえば50歳からの10年を懸命に耐え忍べば、60歳からの第二の人生を充実したものとすることもできたろう。
だが65歳、ましてや70歳まで働くとなると話は別だ。この先15年や20年も耐え忍ぶのなら、カラダが動くうちにやりたいことにチャレンジすべきなのは明らかだ。もはやリタイヤ後に第二の人生などはなく、あるのは唯一、今生きているこの人生だけなのだから。
というわけで、これから黒字にもかかわらず、大規模な早期退職の募集や異業種への配置転換といった「リストラ」が大流行するだろうが、とりあえず誰でも一度は前向きに検討してみるべきだというのが、筆者のアドバイスである。(城繁幸)