絶対的危機を乗り切ることは不可能ではない
一方、ガソリンスタンド・チェーン経営のM社。過去の店舗拡大戦略が裏目に出て、慢性的な運営コスト高に陥り、折りからの競争激化による利幅減少が追い討ちをかけて経営危機に直面します。
社長は、付き合いで本社でのみ取り扱っていたカーディーラー業務が思いのほか好調なことから、ガソリンスタンドを改装してこれを多店舗展開することを考え、銀行に相談しました。
その時、社長が提示したプランは、経営危機を全社員で共有し、待ち受けビジネスから全社員を営業マン組織への転換を図ること。そのために営業コンサルタントの徹底指導を入れたり、社長以下全員を外部営業研修に派遣したりと、全社一丸で決死の戦略転換を打ち出したのでした。
このM社の主力事業の転換には社員の戸惑いも多く、一部では「営業が主業務になるなら会社を辞める」という動きも出ました。しかし、残った社員は社長を中心として危機感を共有しつつ、必死の思いでセールス実践力を磨き、全社一丸でセールスプロフェッショナルとしての自信を身に着けてカーディーラーへの転換戦略を推し進めたのです。
結果は、ほどなく出ました。従来から法人取引先に恵まれていたことも幸いして、カーディーラーとしての業績は順調に伸びて2年後には優秀販売店表彰を受けるほどにまでなり、M社の経営危機は過去のものとなったのです。
強豪に挑む団体スポーツでも、組織として試練に立ち向かうビジネスでも、絶対的危機を乗り切ることはもちろん、たやすくはありませんが、決して不可能でもありません。
まずは危機感を全員で共有すること。そして、黙って目の前の危機をやり過ごすのではなく、「これだけやったんだから」と自信が持てるだけの鍛錬を積んで、臆せず迎え撃つこと。皆が困難に「勝ちたいというメンタリティと、勝てるという自信」の境地に至るなら、どんな試練も乗り越えることができる、ラグビー日本代表チームの快挙は、そう思える力を与えてくれたのではないでしょうか。(大関暁夫)