「決められたロジックで分析したのに回答を導くことができない」
「難しくてどのように使いこなせばいいのかわからない」
多くの日本人が習慣として使う思考法。変化の激しい今の時代を生きるにはアップデートの必要性があるかも知れません。経営コンサルタントの入江仁之さんが、いま従来の思考法に変わって注目されている「OODA(ウーダ)ループ」という思考法について、まとめています。
「OODAループ思考」(入江仁之著)ダイヤモンド社
思考法にはそれぞれの志向性がある
OODAループは、アメリカ空軍大佐のジョン・ボイドが提唱した、敵に勝利するための基本理論です。
当初は、戦闘機パイロットとしての経験に基づいた、 一瞬の戦闘に勝つためのものでした。 その後、ボイドが諸科学の知見を取り入れて汎用性を持たせた結果、 OODAループは戦略、政治、ビジネスやスポーツにまで広く活用されています。
欧米では、「どんな状況下でも的確な判断・実行により、確実に目的を達成できる一般理論」として認められるようになりました。現在、アメリカをはじめ世界中の軍隊はもちろん、 シリコンバレーを中心にビジネスエリートが好んで使う思考法となっています。
みなさんは、どのような思考法をご存知でしょうか――。たとえば、ロジカルシンキングは適用範囲が広く、複雑な問題を整理・分析して道筋を立てることができます。ですが、世の中の事象はロジカルに説明できないこともあります。
コンセプトシンキングは、バラバラの断片的な情報から筋道を立てる手法です。しかし、この手法もかなりレベルの高い仮説力が必要とされます。誰でも簡単に使えるというものではありません。
OODAループと、既存の思考法との明らかな違いは「汎用性」であると考えます。誰もが使用できて同じ回答が導き出されるものでなければ、思考法として意味をなしません。世界の軍事組織が戦略や戦術レベルに採用しているのは、弱点が比較的少ないことに加えて、スピードに主眼を置いた思考法だからといえるでしょう。
心が揺らげば、勝つことは難しくなる
ジョン・ボイド大佐は、OODAループに関する知見をまとめることなく、講演用のスライドや短い論文などを残したのみでこの世を去りました。いまは亡き、ボイドの理論を体系化してわかりやすくしたものが本書になります。 入江さんは、
「私自身、長年OODAループを研究し、組織にOODAループを埋め込む支援をするなかで、活気がなく、停滞感や閉塞感が漂う組織をいくつも見てきました。経営陣から現場まで、一人ひとりの思考法が変わらない限り、日本の組織は速くも強くもなれないし、成長もできないことは明らかでした」
「スピードと柔軟性が最優先される時代にはそれに合った思法が必要ですが、今の日本人にはそれがありません。だから私はOODAループを使いこなせる人を1人でも増やすために、この本を書くことにしました」
と言います。
本書の要点を、ひと言で説明するなら「相手のメンタルを破壊すること」です。戦闘の場面で、相手のメンタルを破壊できれば戦闘意欲をなくします。とてもかなわないと白旗を上げさせれば戦闘は終結です。無用な血が流れることも、消耗戦に陥ることもありません。
剣豪の宮本武蔵は、メンタルをターゲットとして破壊することを「うろめかす」と表現しています。心が揺らげば、武力の達人でも勝つことは難しくなります。
科学的知見を取り入れていたボイド大佐ですが、なかでも座右の書としてOODAループの思想的背骨に位置づけていたのが、宮本武蔵の「五輪書」でした。相手のメンタルを破壊して勝利するOODAループ。注目してみたい思考法のひとつです。(尾藤克之)