日本の輸出規制強化で始まった日韓経済戦争は2か月半を超えた。韓国では過去に何度も日本製品の不買運動が起こったが、アッというまに終わるのが通例だった。
「熱しやすく冷めやすい国民性なのに、なぜ?」と、韓国メディアも不思議がる。長引く不買運動の弊害は韓国国民にブーメランで返っている。韓国紙から読み解くと――。
日本式飲食店の跡地にできる北朝鮮風酒場の悪評
ソウル市内に「弘大」(ホンデ)というにぎやかな街がある。弘益(ホンイク)大学前の大通りを中心にした繁華街で、日本でいえば渋谷や原宿に相当する若者文化の街。弘益大学(弘大)が、デザイナーや美術家、ミュージシャンなどを専門に輩出するお洒落な芸術系大学だからだ。
そのホンデで、行き過ぎた日本製品不買運動を象徴するような出来事が報じられた。
大人気だった日本式飲食店が閉店に追い込まれ、「北朝鮮風酒場」に生まれ変わるのだ。朝鮮日報(2019年9月22日付)「日本式飲食店の跡に北朝鮮風の飲食店出現」が、こう伝える。
「弘益大学前では、北朝鮮の金日成(キム・イルソン)・金正日(キム・ジョンイル)父子の肖像画を外壁に描いた『北朝鮮式飲食店』が開業に向け準備中だ。日本の木造建築物をまねて作った2階建ての有名日本式飲食店が最近の反日ムードで閉店した場所だ」
ここには「うまい京都」という名前の日本料理店が営業していた。韓国のグルメサイトにはよく載り、若者らにも人気の店だったが、その跡に登場した店が市民のひんしゅくを買っている。
「(市民の一人が)工事現場の外壁にかけてあった幕を剥ぎ取った。建物の前面には北朝鮮女性の大きな絵を含む3メートルサイズの看板が掛かっている。金日成主席と金正日国防委員長の父子の肖像画と人共旗(編集部注・北朝鮮の国旗)も姿を現した。店舗内部も北朝鮮でなければ見られないはずの絵やスローガンであふれていた。壁には金日成とみられる男を北朝鮮の女子学生が取り囲んで泣く姿が描かれていた」
韓国には「南男北女」(ナムナムプンニョ)という言葉がある。日本の「東(あずま)男に京女」のようなたとえで、女性は北部出身の方が美人で気立てがよいといった意味らしい。だから、飲食店でも「北朝鮮風の女性」は人気があるというが、さすがにこれはやりすぎだった。朝鮮日報(9月22日付)がこう続ける。
「住民の陳情で、警察が国家保安法違反の適用を検討している。国家保安法7条は『反国家団体やその構成員の活動を称賛、鼓舞、宣伝した者は7年以下の懲役に処する』と規定している。警察関係者は『関心を引く目的で過剰な装飾を行ってはいるが、利敵性を帯びてはおらず、国家保安法の適用は難しい。業者は人共旗と肖像画は消すと表明した』と説明した」
ホンデでは、ほかにもいくつかの日本式料理店が閉店に追い込まれている。
韓国ユニクロ最大店舗の客は外国人ばかり
ところで、なぜこれほど長く日本製品不買運動が続いているのか――。韓国ではこれまで何度か不買運動が起きている。「新しい歴史教科書をつくる会」の中学歴史教科書採択が問題になった2001年、島根県が「竹島の日」条例を制定した2005年、その「竹島の日」式典に安倍政権が内閣府高官を派遣した2013年などだ。しかし、いずれも日本側企業に実害が出ないうちに短期間で終息している。
韓国紙にとっても大きな疑問のようで、中央日報(9月19日付)「コラム:長期化する日本製品不買運動の影」は、次のように分析している。
「不買運動が2か月を超えた。序盤だけ勢いがあり尻つぼみになっていたこれまでの不買運動とは違い、熱気が長く続いている。これにはネットユーザーを中心とした市民の自発的な参加、依然として改善しない韓日両国関係などが複合的に作用している。しかし不買運動が長期化するにつれて、あちこちで影も濃くなっている。日本の『経済挑発』に対する国民の『応戦意志』を確認したという意味はあるが、意図せず被害を受けている国民が続出している」
中央日報の記者は、韓国で最大のユニクロ店舗「ユニクロ明洞(ミョンドン)中央店」を訪れた。閑散とした状態だった。4階からなる各階には6~7人の客がいたが、韓国語を話す人々ではなかった。ユニクロ関係者は「普段は外国人と韓国人の顧客の比重が半々だが、最近は韓国人が20%もいない」と話した。
ユニクロは正確な売り上げ状況を明らかにしていないが、業界では不買運動以降、70%ほど減少したという分析を出している。
中央日報記者は、さらに日本専門旅行会社代表のキム氏から話を聞いた。キム代表はため息をついて、こう語った。
「日本旅行客の減少幅は統計上20~30%としているが、旅行会社が体感している程度ははるかに高い。旅行会社を利用する団体客は80~90%減った。グループの中で一人でも『今、日本に旅行に行くのはちょっとね』と言い出せば、全員取り消してしまうからだ」
キム代表は、日本旅行に行かない運動が日本にダメージを与えているという見解には懐疑的だ。むしろ韓国人にブーメランが返ってきている面が大きいと指摘した。
日本は現在、「2020年五輪観光客2000万人誘致』を目標に掲げ、すでに東京・大阪など主な地域の宿泊施設は飽和状態だ。確かに、対馬や九州など一部の地方では、韓国の日本旅行ボイコット運動が影響しているが、日本全体では大きな問題になっていないというわけだ。
対馬の被害者は、じつは島に投資・就職した韓国人たち
たとえば、対馬のケースがそうだ。
「対馬訪問客の95%に達した韓国人の足が途切れ、対馬は閑散としている。しかし、その被害は対馬住民だけのものではない。最近、対馬に新たにできた宿泊施設・食堂・免税店・釣具店の大部分は韓国人が投資した施設だが、これらの被害がこの上なく大きい。実際、対馬に事業や就職のために進出した韓国人は200人余りに達する。彼らの仕事がなくなっている」
かつてないほど長く不買運動が続く背景には、SNSの浸透が大きい。中央日報(9月19日付)がこう指摘する。
「企業はひょっとして『親日』のレッテルを貼られて、ネットユーザーの袋叩きにあいかねないだろうかとまさに緊張モードだ。ある広報関係者は『問題そのものが超理性的領域だけに、少しでも親日イメージがつく可能性がある事業はとにかく保留している』と話した。
こんな雰囲気の中で流れ弾に当たる中小企業も多い。野生草成分を利用した保湿剤を開発したベンチャー中小化粧品A社の場合。本格的な発売のためにある大型流通業B社と供給交渉を行った。順調だった交渉は、突然B社からストップがかかった。A社の取引先の大手化粧品会社が不買運動の対象になったため、B社が保身を図ったのだ。A社の社長は「良い品質という評価を受けて期待を膨らませたのに、韓日問題のために挫折するとは想像もしなかった」
と悔しがった。
ネット上の根拠のないうわさに戦々恐々とする企業も続出している。ロッテ酒類は新しい焼酎を発売する矢先に、オンライン上で「日本のアサヒビールがロッテ酒類の株式を保有している」というデマが飛び交った。会社側はホームページに「全く事実ではない」と公示して、新焼酎を含めて全製品の歴史をまとめた印刷物や横断幕まで製作して主要な商圏の全店舗に配置した。
この騒ぎはいつまで続くのか。中央日報(9月19日付)はこう結んでいる。
「不買運動は日本に実質的な打撃になっていない。韓国が日本から輸入する物品ほとんどは、材料・部品・装備のような資本財で、消費財の比重は6%程度だ。関税庁によると、減少した輸入額をすべて不買運動の影響に換算しても、日本の対韓輸出に及ぼした影響はわずか0.2~0.8%だ。不買運動が怒りと愛国心を表現できたとしても、返って被害を受ける韓国国民の苦痛も考えてみなければならない」
(福田和郎)