2019年4月にはじまった「働き方改革」で、「年次有給休暇」が変わりました。政府が労働基準法を改正して、社員に最低5日の年次有給休暇を取得させることを、会社に義務づけたのです。
今回のテーマは、「勤怠」欄にある「年次有給休暇」です。
1年後に「残年休日数」が減っていないと......
入社2年目の平松健史さんの給与明細書にある「残年休日数」は「10日」。使える年次有給休暇が10日あることを示しています。入社2年目の平松さんの場合、8月の段階では労働基準法に規定された原則的な「残年休日数」になりますから、この給与明細書からは、平松さんが入社以来1日も年次有給休暇を取得していないことがわかります。
一方で、この4月から会社が責任をもって、社員(労働者)に最低5日の年次有給休暇を取ることを、義務づける労働基準法の改正がありました。仮に、平松さんに年次有給休暇の10日が付与された「基準日」が2018年10月1日だとすると、今回の改正労働基準法の施行が2019年4月1日なので、改正法の対象外になります。改正労働基準法では、2019年4月1日以降に、新たに10日以上の年次有給休暇が付与された人が適用の対象となるからです。
したがって、平松さんは現在10日の年次有給休暇がありますが、これは2018年10月に付与されたものなので、2019年8月時点では今回の改正法の対象者でないということなります。平松さんが対象者になるのは、2019年10月1日に「11日」分の年次有給休暇が新たに追加された段階になります。
つまり、平松さんがこのまま2019年9月30日までに年次有給休暇を取得しないまま、2019年10月1日からの1年間に5日以上の年次有給休暇を取得しないと、改正労働基準法違反となり、会社側に30万円の罰金が科せられることになります。
平松さんの給与明細書の「勤怠」欄にある現在の「残年休日数」は「10」ですが、このまま年次有給休暇を一日も取ることなく10月1日を迎えると、新たに11日の年次有給休暇が付与されて合計で「21日」となり、「残年休日数」の表記が「21」となります。そこからの1年間に、平松さんが5日の年次有給休暇を取得しないと、今回の改正労働基準法に抵触することになるわけです。
その半面、平松さんは1年間のうち、5日間の有給休暇を半ば強制的に消化することになりますが、5日間の休みを取ったのちに万が一、病気に罹って7日間の休暇を余儀なくされた場合には、2日間が欠勤扱いになりますから、2日分の給料を差し引かれることになります。
そのあたりも考え、自分の体調をしっかり管理して、有給休暇を取得しましょう。
就業規則、確認したほうがいいかも!?
今回、労働基準法が改正された背景には「日本人の働きすぎ」があります。そこで政府は社員に、半ば強制的に5日間の有給休暇を取らせようというのです。とはいえ、会社の実態、なかでも中小企業のそれを考えると、かなり厳しい法律であることは間違いありません。
社員に有給休暇を取らせなければ、会社には罰金が科せられます。また、社員の休暇の管理に手間もかかります。
会社も考えました。現在、会社には独自で決めた年末年始休暇や8月のお盆休み(夏季休暇)が設けられていると思います。これらの休日は有給休暇扱いですが、法律の改正前には年末年始休暇や夏季休暇とは別に、年次有給休暇が取得できていたはずです。
ところが、もともと会社が独自で決めていた年末年始休暇や夏季休暇を、年次有給休暇の5日間に当てはめてしまえば、法律で定められた5日間を超えて取得させることができ、自動的にクリアすることができます。
一方、社員にとっては年次有給休暇の日数が5日間、自動的に減ってしまいます。これは労働契約法の就業規則の不利益変更違反条項に抵触することになると考えられます。
つまり、会社は社員採用時の募集要項や就業規則に年末年始休暇や夏季休暇について定めがない場合や、社員の自発の意思での合意がない限り、年末年始休暇や夏季休暇などの法定外休日を有給休暇の取得義務の5日間に充てることはできない可能性があります。
年末年始や夏季休暇を年次有給休暇の日数にカウントしていいのか、これが不利益変更に当たるかどうかは、この法律が4月に始まったばかりで適用されたケースがないため、現時点では判断できません。
今後、こうした事例が起こっても、労働基準監督署も最初は注意喚起にとどめるでしょう。また、法律に違反したからといって、いきなり罰則が適用されるということもありません。
ただ、会社で働く立場としては、就業規則などを確認しておく必要がありそうです。
現在の有給休暇日数を知ろう
ところで、みなさんは自分の年次有給休暇が何日あるか、きちんと把握していますか――。本来、賃金は働いたことに対する報酬なので、ノーワークノーペイ(No work No pay)が原則です。会社側からすると、働いた実績がなければ、報酬としての賃金を支払う責任はありません。しかし、労働基準法では労働者を守るために、病気などで働けなくても報酬をもらえる日として「年次有給休暇」の制度を設けたわけです。
労働基準法(改正法)では、次の条件を満たした社員(労働者)は、年次有給休暇をもらえると規定しています。
(1)雇入れの日から6か月継続して雇われている
(2)全労働日(働くべき日)の8割以上を出勤している
の2点です。
また、この条件はいわゆる正規雇用者、非正規雇用者を問いません。正規雇用者だけでなく、パートやアルバイトの人も、上記の条件を満たして働けば、年次有給休暇がもらえます。
ただし、一週間の勤務日数、勤続年数によってもらえる(付与される)年次有給休暇の日数は違ってきます。いわゆる正規雇用者で、週5日・30時間以上勤務の人の付与日数は、以下のとおりです。
入社日から0.5年目、いわゆる半年経った日(4月1日入社ならば10月1日)を「基準日」といい、その「基準日」に会社はその社員に「10日」の年次有給休暇を与えなければならないと規定されています。
上記の2つの条件を次の1年間に満たして、翌年(1.5年目)の「基準日」を迎えれば今度は「11日」(給与明細書にある平松さんは、10月からこれに該当します)が与えられ、それに前年までの未消化分の年次有給休暇の日数が加算され、「基準日」以降の1年間の年次有給休暇日数となります=下表参照。
そして、入社して6.5年目の「基準日」からは毎年20日の年次有給休暇が付与されます。また、この年次有給休暇には「2年の時効」がありますので、1年間の年次有給休暇日数は最大40日が上限になります(ただし、繰り越し日数は会社によって規定が異なります)。
つまり、給与明細書の「残年休日数」の記載は、多くの会社が前年の繰り越し分を含む、最大40日になるわけです。
またパートやアルバイト・パートの人(週4日勤務以下かつ週30時間未満の労働時間)の年次有給休暇の付与日数は、就業実態に合わせて比例付与という制度が適用されます。その付与日数は以下の表のとおりです。
ちなみに、最近はこの入社日から半年目の「基準日」を、労働基準法に違反しない範囲で変更して、設定している会社が増えてきています。中途採用の人が多い中小企業などでは、それぞれ「基準日」が異なると、その管理が煩雑になるからです。
たとえば、4月1日から9月30日までに入社した人は、基準日を4月1日にして10日を与える。10月1日から3月31日までに入社した人は、基準日を10月1日にして10日を与える、といった具合に、会社としての基準日を4月1日と10月1日の2日に統一して管理しやすくしたりしています。
このように、自分の年次有給休暇付与の「基準日」がいつなのかを確認したうえで、年次有給休暇が何日あるかを覚えておきましょう。(安藤文芳)
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