会社を、社員を放り投げたZOZO前澤氏 あまりに「利己中心的」で無責任ではないか!(大関暁夫)

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   「バスキアの絵画を123億円で購入」「月周回旅行を契約」「総額1億円のお年玉をプレゼント」――。ここ2~3年、何かと話題を集めているECサイト運営の風雲児、前澤友作氏率いるアパレル通販サイト「ZOZOTOWN」が、孫正義氏が率いるソフトバンク・グループのYahoo!傘下に入ることが報じられ、世間を騒がせています。

   前澤氏は、所有株式の大半を売却。同時に社長の座を降りて、ZOZOTOWNの経営から完全に撤退することとなりました。

  • 「月旅行」へ邁進する? 前澤友作氏(2018年10月撮影)
    「月旅行」へ邁進する? 前澤友作氏(2018年10月撮影)
  • 「月旅行」へ邁進する? 前澤友作氏(2018年10月撮影)

ZOZO株、市場よりも高値で売り抜こうとは......

   ZOZOTOWNは、前澤氏が2004年に立ち上げた衣料品通販サイトの「ハシリ」で、東京の最先端ファッションが全国どこででも手軽に手に入るというコンセプトが受けて急成長します。

   しかし、後発競合サイトの乱立に加えてZOZOスーツをめぐる不評などにより、プライベートブランドの立ち上げに失敗。起死回生策として昨年(2018年)から始めた会員向け割引サービスが、ブランド毀損の恐れがあると有名出店企業が相次ぎ撤退したことで「ZOZO離れ」を招き、近況は株価もピーク時の半値を割り込むという「負の連鎖」に歯止めがかからない状況にありました。

   今回の企業譲渡は、このような状況を受けて前澤氏サイドから孫氏に「相談」が持ちかけられたと言います。Yahoo!は、Amazon、楽天に遅れをとっている自社ショッピングサイトのテコ入れを模索中という思惑と合致し、話はトントン拍子に進んだのだといいます。

   世間的には、冒頭に記したような金持ち風を吹かせていた前澤氏に対する妬みもあってか、企業売却という氏の判断と行動を、経営者として無責任とする意見が強く出ています。

   企業のM&Aは有効な企業戦略のひとつであり、たとえどのような状況にあろうともM&A(企業の買収・合併)の、それ自体は責めを負うべき存在ではありません。ただ今回の場合、ZOZOTOWN自体が前澤氏のワンマン企業であり、「企業=経営者自身」との印象も強かっただけに、前澤氏を信じて従って、あるいは憧れて付いてきた社員たちの立場を考えると、前澤氏はワンマン経営者として社員のことをどう考えてきたのか、またこの先をどう考えて行動したのか、その点はかなり気になるところであります。

   辛辣に申し上げれば、同社の株価が下げ続けている折に、市場よりも高く買ってくれる相手に持ち株を売り抜こうという自己利益を優先させて、社員のことなど頭になかったのではないかと言われても仕方がないのではないかと思うのです。

「社員が主役」のZOZOTOWNなどあり得ない

   ひとつ、大変気になったことがありました。ZOZOTOWNのホームページ上のカンパニーステートメントに突然、「いよいよ私たち社員が主役です」というコメントが掲載されたことです。

   誰の意思で誰が書き込んだものなのか。私は、このあまりにタイミングのよい、デキすぎたメッセージを一社員が書き込んだということはあり得ないと思っています。これは社員に対する、前澤氏の言い訳なのではないのか。今までワンマンだった自分の経営から解き放たれて、君たちの時代が来るのだと。だからこの身売りは君たちにとってプラスに働くものなのだと。そんな言い訳であり、社員を無視した突然の売却を無理に説明した詭弁に違いないと、確信に近いものを感じています。

   確信の理由は、前澤氏自身が会見で、「これまでの私の感性に基づく経営から、総合力やチーム力が問われる経営に移行する」と「社員が主役」の時代が来るかの如く話していたことです。

   では、前澤氏の下を離れて本当に「社員が主役」になるのかと言えば、そんなことは絶対にあり得ないでしょう。むしろその逆ではないのかと。グループ内のあらゆる業務でナンバーワンの座でなければ満足しないソフトバンク・グループ総帥の孫氏が、「社員が主役」のZOZOTOWNの実現などさせるはずがありません。

   ECサイトで1位になるという明確な孫氏発の宿願がある以上、むしろ前澤氏以上のカリスマで超ワンマンな孫氏の下で社員たちは、前澤氏以上に強烈な個性に引きずり回されるに違いない、とみています。

カリスマでワンマン経営ゆえの重罪

   M&Aでは、大手企業のサラリーマン社長でももちろん、相手の規模やトップの性格などを考慮し、単に戦略的な観点だけでなく企業風土や文化といった観点で総合的に検討し、特にそれは社員の立場で考えてということも含め、統合あるいは傘下に入ることが正しいのか否かの判断を下しているのです。

   例外はあります。救済先を求めているような危機状況の場合は、企業文化面での相性を考えるなどの余裕はなく、とりあえず救ってもらえることが社員にとっても最善の策であるとの考えで動きます。

   しかし、今回はそれには当たりません。むしろ相手の傘下に入るというケースでるがゆえ、企業文化の相性によほどの慎重さが求められることは経営の常識であると、私は思います。

   前澤氏の判断はそういった企業文化、従業員目線といった観点からは、あまりに安易な選択であったと言っていいでしょう。もちろん、今のベンチャー企業にそんな古臭い常識は通用しないと言われる向きもあるのかもしれません。しかしながら私個人は、カリスマでワンマン経営であるならあるだけ、それに従わせている社員に対する責任は重たいのだと、常々規模を問わずワンマン経営の経営者には言い続けてもいます。

   時代は変われど「組織は人なり」は不変であり、多くの経営者をこの目で見てきた立場からは、「人」を軽く扱う経営者は必ず報いを受けると確信しているからです。

   今回のYahoo!傘下入りで、早晩前澤氏を慕ってきたZOZOTOWNの多くの社員は、辞めることになるでしょう。企業規模を問わず世の経営者の方々には、前澤氏のような社員を顧みない自己利益中心の経営者にはなってほしくない、と切に思うところであります。(大関暁夫)

大関暁夫(おおぜき・あけお)
スタジオ02代表。銀行支店長、上場ベンチャー企業役員などを歴任。企業コンサルティングと事業オーナー(複合ランドリービジネス、外食産業“青山カレー工房”“熊谷かれーぱん”)の二足の草鞋で多忙な日々を過ごす。近著に「できる人だけが知っている仕事のコツと法則51」(エレファントブックス)。連載執筆にあたり経営者から若手に至るまで、仕事の悩みを募集中。趣味は70年代洋楽と中央競馬。ブログ「熊谷の社長日記」はBLOGOSにも掲載中。
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