喫茶店などに入ると聞こえてくるBGM。店舗などへの音楽配信事業を手がけることで知られているUSEN-NEXT GROUPのUSEN(東京都品川区)が、店舗の「トータルソリューション」を提供する会社へと「変化」している。
音楽配信事業の主たる利用者である「店舗」の開業支援という新たなビジネスモデルを築いている。「有線放送」の提供で培った経験を生かして構築した「開業支援ポータル」が、その原動力。開業希望者、独立志望者を会員に募り、準備から開店後のアフターケア、もちろんBGMの音楽配信も担う。店舗の「トータルソリューション」を提供して、まもなく3周年。会員登録者数は10万人を突破した。
開店~集客「トータルソリューション」を提供
USENの開店支援ポータル「canaeru(カナエル)」には、開業や独立の希望をかなえる――というメッセージが託されている。
開業・独立希望者を対象にしたサポート提供や、シーン別のコンサルタントサービスは数多いが「canaeru」は、物件選びから開店後の集客などまでの「トータルソリューション」を備えた、初の試み。無料で利用できることが親しみやすさを増している。
サイトでガイダンス的な情報を提供、会員登録をするとさらに詳しい情報を得られ、USEN本社で定期的に行われているセミナーに参加できる。事業計画立案、物件選び、資金調達などの支援はもちろん、専門家のアドバイスや指導も受けられる。
相談に応じる専門家のなかには、金融機関で融資の審査に当たった経験者もおり、申請書類の書き方などを指導してくれるという。
資金、物件が手配でき、設計・施工、損害保険、インフラ、音楽配信を含む設備までもケア。いよいよ開店となり、営業が始まってからの調達、集客支援、販売促進、場合によってはコストの見直しなども支援サービスではカバーする。
サイトの誕生に二つの背景
「canaeru」がスタートしたのは、2016年12月。当時から、このサイトの責任者を務める、企画制作部の菊地崇夫部長によれば「canaeru」誕生には二つの背景があったという。
一つは、音楽配信事業に依存する体質からの脱却。音楽市場の縮小は店舗向けの音楽配信においても無縁ではなく、インターネットを使った音楽配信などサービスの多様化で「音楽への費用投下が抑制方向に進んでいた」事情があり、音楽配信事業に続く新たな事業が求められていたこと。もう一つは、以前から音楽配信以外にも店舗に必要な数々のサービスを取り扱っていたので、会社として「違うイメージを訴求」して成長につなげたいと、その転機を探っていたことだ。
以前から音楽配信をお店に設置するプロセスのなかで、光回線やWi-FiやタブレットPOSレジなどの提案サービスを行っていたのだが、音楽配信に比べて、その知名度は低い。そこでUSENの田村公正社長が菊地さんらに対策を指示。さまざまな議論を重ね、菊地さんは開業支援のウェブサイトを提案。それが2015年のころだった。そしてその1年後にスタートにこぎつけた。
当初は事業とは切り離し、USENを前面に出さず、開業関連の記事などを集めたコンテンツ重視の運営だったが、サイトへのアクセス数が徐々にアップするのに合わせ、開業資金や物件に関する相談を可能にする機能を起点に、開業の準備や開業後の運営にも役立つコンテンツをラインアップ。音楽配信サービスも含めてワンストップで済ませられる「canaeru」の需要が増加した。会社の成長に欠かせないマーケットの開拓に、ひと役買っているという。
新コンテンツ「開業ビデオセミナー」
「canaeru」は会員10万人達成を前にして、開業・独立希望者をサポートするためのサービスやコンテンツをさらに充実。「店舗物件検索」は東京を中心とした首都圏、大阪、名古屋の3大都市圏から、北海道や九州もカバー。会員登録すると、物件周辺の商圏情報も確認できるようになっている。
店舗の内装相談も充実。会員は参考レイアウト図面やパースの参照ができ、内装業者らプロの視点での物件チェックシートのダウンロードオプションもある。設計や内装について、専門家が無料で相談に応じてくれる。
「無料開業相談」は、菊地さんが「力を入れている」と強調するサービス。開業資金の調達、店舗物件の選定、創業計画書の作成など開業に欠かせない基本的なことについて、それぞれの専門家が対応。費用はかからない。会員の増加に合わせて相談に応じるスタッフを増強。金融機関出身者のほか、不動産業界経験者、店舗経営経験者も加わり、親身に具体的な対応を行っているという。
コンテンツには、この夏から新たに「開業ビデオセミナー」をラインアップ。スタッフの専門家らが、資金調達や物件選定、開業手続きなどのポイントを解説する動画で、菊地さんは「これを見てもらえば、『canaeru』のアウトラインがわかってもらえる」と話している。