年季の入った職人たちが、その「匠の技」を紹介、披露するイベント「ものづくり 匠の技の祭典 2019」へ行ってきた。
東京建具協同組合や東京都建築板金技能士会、全国和裁技能士会、東京都ミシン商工業協同組合などの団体や企業に所属する職人たちが「工」「住」「伝」「衣」「食」「全国」の6つのエリアに別れてブースを設置。来場者が見学したり体験したりできる催しで、日本を支えてきた伝統的な匠の技と最先端のものづくりの技術を、間近で楽しませてくれた。
瓦を一枚ずつ、隙間なく積む
会場の東京・五反田のTOC展示場は、多くの子供連れの家族で賑わっていた。ロボットやVR(バーチャル・リアリティー)の体験をやっているかと思えば、すぐ近くには大工さんによる鉋(かんな)掛けの実演。紙のように薄く削っている。その木屑がカツオ節のように、おいしく見えたのは私だけだろうか。さらに茶道のパフォーマンスに染物の体験。このジャンルを超えたゴチャゴチャ感は、おもちゃ箱の中にいるようでとても楽しく、時間が過ぎるのを忘れて歩き回った。
なかでも興味を引かれたのは東京都かわらぶき技能推進協議会による「屋根の瓦積み」の実演だ。屋根の一部を再現した模型に瓦を一枚ずつ、隙間なく積む様子に目を奪われた。それは「積んでいく」というより、「編んでいる」かのよう。瓦が整然と並んでいる。
この体力と緻密さを要する作業を、実際は足場の悪い、斜めの屋根の上で行うのかと想像すると、クラクラしてしまう。
室内なのに一人汗だくになって実演する寡黙な職人さんに、思わず「夏は大変ですね」と声をかけた。
職人さんはニコッと笑って
「もう、大変ですよ?」
と言う。
鼻にかけた様子も、文句めいた調子も感じられなかった。おそらく、「大変なこと」は当たり前なのだ。この職人さんは屋根の上でもきっと黙々と正確に、当然のこととして瓦を積むのだろう。
難しいことを難なくこなす「職人技」
いわゆる瓦葺き職人(かわらぶき技能士の資格保持者)は、全国で2万3377人(2017年度時点の合格者累計、中央職業能力開発協会)がいる。かわらぶき技能士は国家資格で、受験者数は累計4万3000人。合格率54.5%の狭き門だ。
全日本瓦工事業連盟によると、東京都内の事業者数は145社。ただ職人数となると、「一人親方でやっている事業所もあれば、5人、10人と職人を抱えている事業所もありますから、職人の正確な数はよくわからないのが現状です。平均年齢も、低くないということぐらいしか言えませんね」と、担当者は話す。
日本瓦(和瓦)は重たく、最近の一般住宅の屋根はスレート瓦(薄い板状の屋根材)やガルバリウム鋼板(鉄板基材にアルミニウムや亜鉛、シリコンから成るメッキ鋼板)を素材にした施工に変わってきた。
それでも、神社・仏閣をはじめとした日本建築の屋根に瓦はつきものだし、威風堂々たる佇まいでありながら、静寂観や優雅さを醸し出すには、日本瓦は欠かせない。反って丸みがある屋根を、いかに自然と調和した曲線に描き出すことで、その建物に合うように造り出す――。それこそが瓦葺き職人の腕なのだろう。
瓦をきちんと葺かないと、ひどい雨漏りにもなりかねない。台風や豪雨から家屋を守るためにも、瓦を一枚一枚丁寧に積むのだ。
「匠の技」を写真や動画で見ることは簡単だが、実際に職人さんの息遣いを感じられる距離でその技術を見て、体験できる機会は貴重だ。
職人と呼ばれる人たちが、いかに難しいことを難なくこなしているのか、身をもって知ることができるイベントだった。
家具や洋服、家や本、当たり前なのだが、「誰かが汗をかいて作ったもの」に囲まれて私たちは暮らしているんだなぁ。
なお、このイベントは東京都が主催。7月25日~27日に開催された。
(文・絵 なかざわ とも)
※ 2019年9月に関東一円を襲った台風15号で最も被害が大きかった千葉県へ、東京・下町など県境を中心とする多くの瓦葺き職人が支援に当たっている。