働き盛りの人たちは、「仕事の家庭の両立」を実行できているだろうか。特に、子どもが生まれたばかりの夫婦は大忙しだ。休む暇なく赤ちゃんの面倒を見なければならないうえ、仕事も質量ともに、急に減らすことはできない。そんなハードな毎日を、いかに乗り越えようとしているのか。
2年前に娘が誕生したという千葉商科大学専任講師の常見陽平さんが、「育児本」を上梓した。働き方や就職に関する多数の著書を持つ常見さんが、子育てについて訴えたかったことに迫った。
「僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う」(常見陽平著)自由国民社
「命こそが、一番大事なんです」
平日でも1日平均約6時間、育児・家庭に没頭している――。「僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う」(自由国民社)の「はじめに」で常見さんは、こう明かしている。
かつては平日、休日なく「死に物ぐるいで働く」生活だったが、娘が生まれて一変。「自分の思い通りに動ける時間はほとんどなくなりました」。
同書には論点がいくつもあるが、4章の「仕事は、やりくりだ」に注目した。
現在を「子育てを優先順位の一番に挙げている時期」と位置づける一方、仕事に関しては「『以前の自分なら、これだけできていたのにな』と悲しくなる日もあります」と心境を吐露している。「『この1年で大事な充電をしているんだ』と割り切ることにしました」と続けているが、簡単にスパッと切り替えられるものだろうか。
「気持ちの折り合いはついていません」。常見さんに直接聞くと、意外とも思える答えが返ってきた。だが、すぐにこう続けた。
「命こそが、一番大事なんです」
それまで多くの連載を抱え、年間で何冊もの書籍を手掛けていたが、娘の誕生を機に一気にペースダウンした。現在は大学で教鞭をふるう常見さんも、物書きとしての仕事を減らすことは「チャンスを逃す可能性があるし、焦りました」と振り返る。
「イクメン」「すごはは」になれずに悩むパパ、ママへ
それでも幼い娘は、常に目を配っていないと「万一」が起きてからでは遅い。最優先すべきは娘の命であり、その軸はぶれないとの決意のもと、本書にあるように「思うように仕事ができないことで、自分を責めそうになりますが、なんとか思いとどまっています」というのが本音なのだろう。
常見さんの言葉からは、自身と同じ立場にある、働き盛りの年齢で育児に奮闘する人たちへのエールが聞こえてくる。
ただ、本人は「イクメン」と呼ばれることに抵抗を示す。
「いかにも仕事と家庭を両立している理想的なイクメン像、凄母(すごはは)像が喧伝される社会において、なかなかそうはなれずに悩んでいるパパやママもいるのではないでしょうか」
と、疑問を呈す。
共働きをする夫婦間で役割分担をすることは必然で、「男性だ、女性だと敵対するのではなく、互いに働きながら協力して子どもを育てる」と認識することの必要性を訴えている。
(荻仁)
「僕たちは育児のモヤモヤをもっと語っていいと思う」
常見陽平著
自由国民社
税別1200円