株式会社スタジオアルタの黒字化を目指していた嶋田正男社長は、主力のアルタビジョンの売り上げアップを図るために、外部からの「プロ人材」のサポートを受けることを決断。これが奏功し、会社の黒字化に成功する。
プロ人材の受け入れから黒字化の達成、そして今後の取り組みについて、嶋田社長に聞いた。
企業理念にあたる考え方の中に「他者が私を新しくする」という文言がある
―― スタジオアルタの黒字化策の一環として「プロシェアリング」サービスを使い、プロ人材を活用されたとのことですが、どのような基準でプロ人材を選ばれたのでしょうか。
嶋田正男社長「最大の課題だったアルタビジョンの売り上げ拡大には、外部目線が必要だと判断しました。そこで、サーキュレーション社のプロ人材活用サービス『プロシェアリング』を利用することにしました。コンサルタントを入れるということは、当然費用もかかるわけですから、様々な反応もありましたが、三越伊勢丹グループの企業理念にあたる「私たちの考え方」にも、『変化せよ!』『他者が私を新しくする』とあるとおり、今こそ他者目線が重要だと説得し、上層部には受け入れてもらいました。
最終的に、サーキュレーションから3人の方を提案いただき、その中で、IoT企業の経営をされている方にコンサルティングしていただくことに決めました。広告業界のバックグラウンドはなく、厳しそうな雰囲気の方でしたが、エンジニア出身で営業経験もあり、経営のプロであった点、新しい目線と発想で、一緒に切磋琢磨できると感じたことが決め手になりました」
―― プロ人材の方と協力される中で、具体的にどのようなステップを踏んで黒字化を達成されたのでしょうか。
嶋田正男社長「コンサルタントと当社のメディア営業担当長のあいだで、ストロークと呼ばれるセッションを行いました。3か月間で全12回のセッションを行い、『現在は、どこから広告が入っているのか?』『競合の渋谷のスクランブルのビジョンはなぜ強いのか?』『アルタビジョンの強みとは?』『アルタのポテンシャルとは?』など、コンサルタントの質問に営業担当長が答える対話形式で、アルタビジョンの強みを徹底的に洗い出しました。
そもそも、大型街頭ビジョンの世界では、渋谷のスクランブル交差点が最強で、新宿のアルタビジョンは二番手というのが定説でした。当社のメディア担当者も、渋谷のビジョンに対しては弱気で、代理店から発注が来るのを待つだけの受け身の体制が続いていました。
初期のセッションでは、うまく答えることができず、ゲッソリと青白い顔をしていた営業担当長でしたが、1か月もたたないうちに顔つきが変わり始めました。対話を続ける中で、顧客が誰なのか、アルタビジョンの強みが何なのかに、自ら気づき始めたのです。
アルタビジョンの最大の強みは、アルタ前にある広場に3000人ほどを集客できる点、SNSなどでの事前告知ができる点でした。つまり、単なる広告配信だけではなく、販促キャンペーンやPRにつなげることができるということに気が付いたのです。これは規制が厳しい渋谷の街頭ビジョンにはない強みでした。
さっそく、この強みをうたった数枚のセールスシートを作成。大手代理店に提案に行きました。すると、『集める』『知らせる』『広められる』という点が、代理店の心をとらえたのです。
それからは、自信をもってプレゼンできるようになり、まるでオセロゲームのように、パタパタと状況は変わりました。実際に2018年8月には、アルタビジョンで人気SFアニメの新作映画の製作発表ムービーが放映され、2000人以上を集めることができました。ほとんどの人がスマホで、アルタビジョンを撮影しており、SNSで拡散され、大成功のプロモーションになったのです」
デジタルサイネージを安定的な事業の「柱」にする
―― 「アルタスタジオ」の現状は、いかがでしょうか。
嶋田正男社長「社長に就任して半年で、アルタビジョンは契約増となり、収益は安定し、赤字月が解消されました。この経験を、オルタナティブシアターや三越劇場にも応用し、それぞれの強みを生かした運営を行うことで業績はV字回復。同時に、会社の働き方改革も断行し、人事制度や有休制度の整備も図り、今年は社員にボーナスを出すことができました。当社の取り組みは現在、三越伊勢丹グループ内で成功事例として語られています」
―― 「スタジオアルタ」の今後の展望をお聞かせください。
嶋田正男社長「今回、外部のプロ人材のサポートを得たことで、社内では得られない、真の他者の力を目の当たりにしました。さらに、今の延長線上に未来があるとは考えてはいけないということも実感しています。アルタビジョンでさえ、ずっと利用できるかはわかりません。常にリスクを考え、世の中の時流を読むことが大切なのです。
現在、この2年間の経験で得た出会いと知見を、新たなビジネスチャンスにつなげる取り組みを始めています。伊勢丹新宿本店に提案して、2019年4月から、本館のエントランスの柱やメンズ館靖国通り沿いの壁面に、デジタルサイネージを設置し、広告動画の放映を始めました。伊勢丹が持つ資産をメディアとして生かし、広告による新たな収益源を獲得するというものです。
今後、三越銀座店にもこうしたデジタルサイネージを設置する提案をしています。将来的には、デジタルサイネージを含む新規事業を、メディア事業、シアター事業に次ぐ安定的な柱として、育てていきたいと考えています。」
(聞き手 戸川明美)