白血病と闘っている競泳女子の池江璃花子さんが一時退院して2019年9月8日、東京辰巳国際水泳場で行われていた日本学生選手権水泳競技大会を観戦した。
この大会では彼女が属している日本大学が男子で総合優勝。これについて、池江さんは「今年は出られず本当に悔しかったので、必ずまたリベンジしたいです」と、マネジメント会社を通じてコメントした。同日の「朝日新聞デジタル」が、そう報じた。
「revenge」には「憎悪」がこもっている
僕は池江さんのファンである。だけど、この「リベンジしたい」という言葉には少しがっかりした。できれば「再び挑戦したい」とか、もし外来語を使いたければ「もう一度チャレンジしたい」などと言ってほしかった。
リベンジは英語の「revenge」から来た言葉である。日本語ではもっぱら「再挑戦する」あるいは「次は勝つぞ」という意味で使われている。だが、英語のそれはまず「復讐」「報復」「復讐する」「報復する」「あだを討つ」といった、いささかおどろおどろしい意味である。そこには「憎悪」がこもっている。
本来はそんな言葉なのだが、日本語のリベンジはとりわけスポーツの世界でこの20年来、日常的に使われてきた。
なんでも、いまプロ野球・中日ドラゴンズの松坂大輔投手が西武ライオンズ時代の1999年4月、ロッテマリーンズの黒木知宏投手と投げ合って敗れた後、「リベンジします」と宣言したのが、この言葉が広く使われ出したきっかけとか。そして、リベンジは同年の「日本新語・流行語大賞」に選ばれ、松坂投手が受賞している。
revengeには、相手に打ち勝って、以前に受けた恥をそそぐ「雪辱」という意味もあって、再挑戦という表現に近いみたいでもある。
でも、再挑戦と、恥をそそぐ雪辱とでは、人に与える感じが違うのではないだろうか。
リオデジャネイロの負けを東京で「復讐」する?
さらに、米国ではプロボクシングなどの格闘技を盛り上げるために、かなり前から「リベンジマッチ」と呼んだりし、日本にもそれが伝わってきている。
だから、競泳やプロ野球の選手が「リベンジ」と言ってもおかしくはない、という意見もあるだろう。でも、殴ったり蹴ったりの格闘技と、競泳やプロ野球とを一緒にするのは、適当ではないのではないか。
それに、2020年の東京五輪・パラリンピックには大勢の外国人がやってくる。そういう人たちに向かって英語で、たとえば「リオデジャネイロで負けたから、東京でリベンジする」などと言ったとしよう。
すると、「正々堂々と戦ったはずの試合に負けたからといって、復讐しようとするなんて、なんとも恐ろしい連中だ」などと誤解されかねない。
「再挑戦」というちゃんとした日本語があるのだから、恨みを持って復讐したいのでなければ、「リベンジ」ではなくて、再挑戦、あるいは「次は勝つ」と言うほうがいいのではないだろうか。(岩城元)