患者に「貧富」の差 高額治療は「平等」でない
「キムリア」の保険適用にあたり、麻生太郎財務相の「高額の医療をやって『存命期間が何年です』っていうと、だいたい数か月。そのために、その数千万のカネが必要なんですかって、よく言われる話ですけど」という発言が物議を醸したことがある。
しかし、この発言の真意は「数千万円を使って治療しても、延命期間が数か月」との批判にあるわけではなく、健康保険制度の財政悪化に対する懸念を示したものだ。
健康保険組合連合会(健保連)は9月9日、健康保険組合で2022年度にも医療・介護・年金を合わせた社会保険料率が労使合計で初めて30%を超えるとの推計を発表した。団塊の世代が後期高齢者になりはじめるためだ。
現役世代が払う健康保険料には、65歳以上の高齢者にかかる医療費を賄うための拠出金が含まれている。健保連は「2022年危機」と位置付け、後期高齢者の患者負担を原則1割から2割に引き上げるなどの対策を政府に求めている。
もちろん、新薬が開発されて病気の治療がなされ、健康を取り戻すことは喜ばしいこと。ただ、その半面、国民の健康を底辺で支えている健康保険制度の存続に大きな影響があるのも事実だ。
また、「新薬が保険適用になり、多くの患者が救われるかもしれないとはいっても、「キムリア」の自己負担は60万円、「オプジーボ」の自己負担は月額8万円。かなりの自己負担であることに変わりはない。
治療が受けられるのは、ある程度の収入がある患者であり、誰でもが治療を受けられる(平等なもの)ではないだろう」(大手病院内科医)との指摘もある。
今後も新薬が高額の保険適用薬となる可能性は大きい。脊髄性筋萎縮症の遺伝子治療薬「ゾルゲンスマ」は年内に厚労省の承認を得る可能性があると見られている。「ゾルゲンスマ」の米国での薬価は2億円を超えている。
こうした高額の保険適用薬については、今後も健康保険制度への影響、治療を受けられる患者の貧富といった問題から保険適用のあり方(たとえば、年齢制限や病状制限など)まで、さまざまな議論が必要になるだろう。(鷲尾香一)