先日の研修会でのアンケートで、このようなコメントをいただきました。
「篠原さんのドスの聞いた声で目が覚めた」
思わず笑ってしまいました。管理職向けの研修でハラスメントについてお話しをしました。このような言動がハラスメントに該当しますよとわかりやすくお伝えするためにちょっとしたお芝居をしたのです。それがあまりにリアルだったようで昼食後の睡魔に襲われかけていた方の目が覚めたというわけです。
「不快=パワハラ」ではない!
特にパワーハラスメントについては、働く側の意識の高まりに伴い、雇う側は「指導」と「ハラスメント」の境界線があいまいで戸惑っているようです。
この点で重要なのは、「受け手が不快に感じる=即パワーハラスメント」ではないということです。
皆さまご存知のとおり、指導を受けるということはそもそも不快なものですから、「不快=パワハラ」では、企業活動のそれ自体ができないからです。
このコラムでは、主に雇われる側の目線でハラスメントと感じる事柄について述べてきましたが、今回は指導する側、つまり雇う側目線でお話しをしたいと思います。
企業は職場でのハラスメントを防止する義務があります。ですから、ガイドラインを作成したり、相談窓口を設置したり、研修などを通じて啓蒙活動も行っています。
しかし、ご相談を受けていると、前述のように「自分にとって不快であれば何でもかんでもハラスメントだと主張する人が増えた」と感じます。ルールを守り、与えられた業務を懸命に遂行していながら、理不尽な扱いを受けるのであれば、それはハラスメントでしょう。
その半面、たとえば医療機関が典型ですが、緊急性や安全性が特に重視される職場においては厳しい指導も許容されざるを得ません。東京地方裁判所の2009(平成21)年10月15日判決(労働判例999号54頁)では、
「単純ミスを繰り返す原告に対して、時には厳しい指摘・指導や物言いをしたことが窺われるが、それは生命・健康を預かる職場の管理職が医療現場において当然になすべき業務上の指示の範囲内にとどまるものであり、到底違法ということはできない」
と、述べています。
企業の制度はすべての社員が安全・快適に働くため
また、それ以前に本来遂行すべき業務(義務)を果たさず、権利ばかりを主張する、えっ?と思う事例も目立ちます。
たとえば、自分だけ楽をしたい、得をしたい、嫌いな上司を陥れたいなどの身勝手な理由からハラスメントされたとSNSに書き込みをするケースです。感情論で世間を煽り、企業イメージを損ねるこのような事例は、企業のレピュテーションリスク(評判や風評によるリスク)が高まり非常に深刻です。
適正な運営をしている企業側からすれば腹立たしいことです。ハラスメント対策だけでなく、企業にはさまざまな制度があります。それらはすべて社員が安心、安全、快適に働くために設けられているものです。
社員は制度に守られ、活用する権利があるのですから、当然ながら企業が求める義務を果たしてほしいと願うのは当然ではないでしょうか。
そんななか、フリーランスで働く人を対象にしたハラスメントに関する調査結果報告がありました。ご存知のとおり、2019年5月末に「ハラスメント防止関連法」が成立しましたが、対象は雇用労働者のみで、フリーランスで働く人は含まれていません。フリーランスと聞くと特殊な職業をイメージするかもしれませんが、雇用労働者が副業として働くことも含まれます。
この調査によれば、ハラスメント内容として「精神的な攻撃等」59%と最も多く、「過大な要求等」42%、「経済的な嫌がらせ」39%など、成果物に対して難癖をつけて約束していた報酬を与えない事例もあるようです。
こうした事例に対しては、雇用労働者でないという理由から泣き寝入りとなり、相談する窓口すらないのが現状です。
今後、副業を容認する企業が増える中で、雇用労働者の感覚のまま副業を始めるとこのようなトラブルに巻き込まれる可能性があるわけです。
雇用労働者という制度に守られているメリットを正しく認識し、責任ある言動を心がけていくことが、今後さらに多様化する働き方の変化に対応していけるのではないかと考えます。(篠原あかね)
※「マナーで見直すハラスメント」は、今回が最終回です。これまでご愛読くださいました皆さま、誠にありがとうございました。