年金を「損得」で語るのは間違い
社会のセーフティネットですから、日本が国としてそれを放棄する事態はまず考えられません。仕組みを維持するためのさまざまな調整や、現役世代の約5割を支給するという「所得代替率」の若干の低下はあっても、セーフティネットとしての役割が、それこそ「100年」破たんしないための努力は続けられるはずです。
そうした相互扶助の保険制度に対して、
「今まで払った年金を返せ」
「もう払わない」
などといった個人の損得で語るのは正しくありません。
しかし、あえて損得で考えたとしても、公的年金はじつはかなり「オトク」な仕組みです。知らない人も多いのですが、公的年金は亡くなるまで続く「終身」であり、約10年も受給すれば元は取れてしまうような設計となっています。
もちろん、今の若年層が今の受給者との対比で不利になる可能性があるとしても、死ぬまで受け取れるという強みはパワフルです。
そもそも公的年金は、入ってきた保険料を現在の受給者に廻す「だけ」の仕組みです。9割は保険料収入と国庫(税金)で賄えていて、足りない1割程度の分を過去からの蓄積から取り崩しています。
その「年金積立金」は2018年12月末時点で約150兆円もあり、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)という組織が運用しています。メディアでは「年金運用が株で失敗したから破たんする」などと煽りますが、まったくピント外れの議論といえます。
今回の「2000万円問題」の中では「年金を払うのは馬鹿らしい」という声も聞かれました。また、以前から国民年金の「未納率」はたびたび話題になります。しかしよく考えれば、サラリーマンや公務員は給与から自動的に引かれるため未納になりようがありません。
つまり、自営業者や学生の一部が国民年金を納めていないという話が、メディアによってまるで大半の人が納めていないかのような錯覚を作り出しているといえます。
自営業者や学生の一部に納付を逃げている人は確かにいるのでしょうが、公的年金の全納付対象者で見れば、ほんの数パーセントであり、年金財政への影響はほぼありません(その人たちは消費税などで年金財源の負担をしながらも、満額受給を放棄することになるので、年金財政からするとプラスなのかもしれません)。
それよりも、その間違ったイメージや今回の騒動に影響されて保険料納付をしなくなることによって、公的年金の満額を終身で受け取る権利を失ってしまう人が増えてしまうことのほうが心配です。