営業担当者にとって、よくある「飛び込み営業」という方法ですが、やりすぎてしまうと、違法行為になってしまう可能性があります。
そこで今回は、グラディアトル法律事務所の北川雄士先生に、ここが「ギリギリ」な飛び込み営業について、聞きました。
「帰ってくれ」と言われたのに帰らないと不退去罪の可能性
飛び込み営業が、違法行為になる可能性はあります。アプローチの仕方によっては、刑法上の責任を問われてしまうこともあるので気を付けましょう。
たとえば、営業先で「帰ってくれ!」と言われているのに帰らずにいると、不退去罪(刑法130条後段)に問われる可能性があります。それに何とか商品を売ろうと必死になるあまり、相手の仕事に支障が出てしまうような強引な売り込みをしてしまうと、威力業務妨害罪(刑法234条)に問われる可能性がありますし、商品をよく見せようと大げさに言ってしまい、その説明が虚偽のものとなってしまった場合には、詐欺罪(刑法246条)に問われる可能性もあります。
また、飛び込み営業については、特定商取引法2条1項の「訪問販売」に当たる可能性もあります。
具体的には、(1)販売業者または役務提供事業者が、(2)購入者等に対して、(3)営業所等以外の場所において、(4)商品、役務、特定権利の、(5)契約の申し込みを受け、または契約を締結して行う取引――との要件を満たすと、ここでいう「訪問販売」となり、特定商取引法の規制を受けることになります。
そして、「訪問販売」に当たるとなると、事実と違うことを告げたり、逆に事実を告げなかったり、他には威迫(脅迫に至らない程度の人に不安を生じさせる行為)や困惑などを生じさせることを禁止行為としています(特定商取引法第6条)。そのため、こうした行為をすると特定商取引法に反する違法行為となる可能性があります。
加えて、取引条件を明らかにした書面を契約の申し込み及び締結の段階で交付する義務も規定されており(特定商取引法第4条、5条)、この義務を怠ると違法行為となる可能性があります。
「会社のため」などと言ってはいられない!
次に違法行為に当たる場合ですが、刑法上、企業に対しての飛び込み営業と消費者に対しての飛び込み営業では、その責任に違いはありません。
一方、特定商取引法は、販売方法が多様化する中で、消費者の情報不足や経験の乏しさにつけこむような悪質な営業が行われ、消費者トラブルが増加したことなどの事情から制定された法律であることから、適用の対象は消費者に対する飛び込み営業になります。原則として、企業相手の営業については対象ではありません。
ただ特定商取引法は、取引に営利性や営業性がない場合、たとえば会社がオフィスに設置するための消火器を購入するような場合には、企業に対しての飛び込み営業であっても規制が及ぶ可能性があります。
もし、違法行為をしてしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか――。刑法上の責任については、不退去罪であれば3年以下の懲役または10万円以下の罰金。威力業務妨害罪であれば、3年以下の懲役また50万円以下は罰金。詐欺罪であれば10年以下の懲役と定められています。
また、特定商取引法の規制については、第6条(訪問販売での事実の不告知、威迫や困惑させる行為)に違反した場合に3年以下の懲役または300万円以下の罰金。第4条、5条違反の場合に1年以下の懲役または100万円以下の罰金が定められています。
会社の仕事とはいえ、刑法上の責任はまず実際に行為に及んだ個人に課せられます。さらに、特定商取引法の罰則についても、個人に課せられる場合があるのです。「会社のため」「売り上げのため」などと、言ってはいられないのです。
なお、特定商取引法においては、事業者に対して業務停止などの行政処分を下す規定もあり(第8条)、会社にも大きな影響が出る可能性があります。
◆北川雄士弁護士のひと言◆
営業においては、時として粘り強く売り込むことも必要とされるかもしれません。ただ、やりすぎてしまうと、自分も会社も大きなダメージを負う可能性があります。
誠実、かつやりすぎない範囲で熱意をもって頑張ってください。
今週の当番弁護士 プロフィール
北川雄士(きたがわ・ゆうし)
弁護士法人グラディアトル法律事務所所属弁護士
京都大学法学部卒業後、神戸大学法科大学院修了
「労働問題」「男女トラブル」「脅迫・恐喝被害」「ネットトラブル」 などを得意分野として扱う。ライトノベル作家『U字』としての一面もあり、『剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記 1~凡人貴族、成り上がりへの道~』(MFブックス)で作家デビュー。その後も、『剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記』シリーズとして続刊を刊行中。