「会社のため」などと言ってはいられない!
次に違法行為に当たる場合ですが、刑法上、企業に対しての飛び込み営業と消費者に対しての飛び込み営業では、その責任に違いはありません。
一方、特定商取引法は、販売方法が多様化する中で、消費者の情報不足や経験の乏しさにつけこむような悪質な営業が行われ、消費者トラブルが増加したことなどの事情から制定された法律であることから、適用の対象は消費者に対する飛び込み営業になります。原則として、企業相手の営業については対象ではありません。
ただ特定商取引法は、取引に営利性や営業性がない場合、たとえば会社がオフィスに設置するための消火器を購入するような場合には、企業に対しての飛び込み営業であっても規制が及ぶ可能性があります。
もし、違法行為をしてしまった場合、どのような罰則があるのでしょうか――。刑法上の責任については、不退去罪であれば3年以下の懲役または10万円以下の罰金。威力業務妨害罪であれば、3年以下の懲役また50万円以下は罰金。詐欺罪であれば10年以下の懲役と定められています。
また、特定商取引法の規制については、第6条(訪問販売での事実の不告知、威迫や困惑させる行為)に違反した場合に3年以下の懲役または300万円以下の罰金。第4条、5条違反の場合に1年以下の懲役または100万円以下の罰金が定められています。
会社の仕事とはいえ、刑法上の責任はまず実際に行為に及んだ個人に課せられます。さらに、特定商取引法の罰則についても、個人に課せられる場合があるのです。「会社のため」「売り上げのため」などと、言ってはいられないのです。
なお、特定商取引法においては、事業者に対して業務停止などの行政処分を下す規定もあり(第8条)、会社にも大きな影響が出る可能性があります。
◆北川雄士弁護士のひと言◆
営業においては、時として粘り強く売り込むことも必要とされるかもしれません。ただ、やりすぎてしまうと、自分も会社も大きなダメージを負う可能性があります。
誠実、かつやりすぎない範囲で熱意をもって頑張ってください。
今週の当番弁護士 プロフィール
北川雄士(きたがわ・ゆうし)
弁護士法人グラディアトル法律事務所所属弁護士
京都大学法学部卒業後、神戸大学法科大学院修了
「労働問題」「男女トラブル」「脅迫・恐喝被害」「ネットトラブル」 などを得意分野として扱う。ライトノベル作家『U字』としての一面もあり、『剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記 1~凡人貴族、成り上がりへの道~』(MFブックス)で作家デビュー。その後も、『剣と弓とちょこっと魔法の転生戦記』シリーズとして続刊を刊行中。