「働くことを楽しむ」ゴディバ ジャパン社長の転職のススメ 「VUCA」の時代、変化はますます加速する

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   ベルギーで1926年に創業した「ゴディバ」は、高級チョコレートの老舗として知られる。日本での事業を担う「ゴディバ ジャパン」のジェローム・シュシャン社長は、若いころから日本文化に興味を持っており、経営手腕ともども日本通が買われてスカウトされ、2010年から同社を率いる。

   これまでに「義理チョコやめよう」広告など、ユニークな戦略で売上を大きく伸ばす成果をあげてきた。そのモットーは、「働くことを楽しむこと」。そのためには、楽しみながら働ける場所をみつけること。そうすれば成果もついてくるという。自らのキャリアを振り返り、転職でステップアップを勧めている。

「働くことを楽しもう。 ゴディバ ジャパン社長の成功術」(ジェローム・シュシャン著)徳間書店
  • 高級チョコレートが並ぶ「ゴディバ」の店舗
    高級チョコレートが並ぶ「ゴディバ」の店舗
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リヤドロジャパン社長から転身

   「働くことを楽しもう。 ゴディバ ジャパン社長の成功術」は、シュシャン社長の2冊目の著書。前著「ターゲット ゴディバはなぜ売上2倍を5年間で達成したのか?」(高橋書店)では、社長就任以来5年間で売り上げを倍増させた独自のビジネス論を述べ、その背景には30年近いキャリアを誇る弓道を通じて得た、日本に対する理解があることを明かした。

   フランス生まれ、大学在学中の36年前に旅行で初来日。以来、日本文化に興味を持ち、弓道にも手をそめた。名門のHEC Paris経営大学院で学んだ後、仏国立造幣局、ラコステ北アジアディレクター、LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)のヘネシーのディレクターを経て、磁器人形で知られるリヤドロジャパン代表取締役社長に就任。その後、ゴディバに転じた。

   このように、シュシャン社長は少なくない数の転職を経験し、その都度ステップアップを遂げてきた。その過ごし方はまだ日本にはなじみが薄いものだが、シュシャン社長によれば、転職を繰り返すことも弓道の考え方に通じる。それは「自分の射は、自分で作る」というもの。

「私たちのキャリアにおいてもそれは同じ。自分のキャリアを伸ばすために、私たちはひとつの会社や、ひとりの上司に頼ってはいけない。自分のキャリアは自分で作るしかない」

いい会社に入ることは現代ではリスク

   2019年4月に日本経済団体連合会の中西宏明会長が「終身雇用を続けるのは難しい」と発言したことをとらえシュシャン社長は、日本では転職をめぐるうねりが企業側の都合で大きくなっていることを指摘。「大きな会社、優良企業に入社することが目的、いい会社に入ることが人生のゴールになっている。そんな人がまだまだ多いように思う」という。だが、そうした目的、ゴールを持つことは現代で大きなリスクと気づくべきだと警告する。

   今をときめく成長中の会社を考えれば、その警告が正しいことは明らかだ。「いま私たちがよく名前をきく会社の多くは設立されて数十年の会社」なのだ。アップルの創業は1976年、ソフトバンク1981年、アマゾン1994年、楽天1997年、グーグル1998年――。「創業して20年くらいで大きくなる。これからの時代、この変化のスピードは加速されることがあっても減速されることはない」。就職したときにいい会社が、そこから下り坂に入ることもある。変化はますます激しくなることが予想される。「優良な会社に帰属することを目的とした日本人の就職への意識はこれから足かせになると思う」

   現代は、以前には「直線的」だった「時間の質」が変容。まっすぐにとらえられなくなっており、企業の体力の問題ばかりでなく、そのことも長くひとつ会社で働き続けることが難しくなっている原因という。過去にあった社会の安定性・直線性は、いまではVUCA(ブーカ)という状態に変わった。それは予想できないモノやコトがしばしば現れる状態。VUCAとは、Volatility(変動性、不安定さ)、Uncertainty(不確実性、不確定さ)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性、不明確さ)-?という4つの言葉の頭文字をとったもの。こうした言葉が象徴する時代に長期的な計画を立てるやり方は成立しないと、シュシャン社長。「誰もが考え方を変える必要がある」という。

寝耳に水の身売り話

   シュシャン社長は、このVUCA(Volatility=変動性・不安定さ、Uncertainty=不確実性・不確定さ 、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性・不明確さの頭文字をとった言葉)の時代を経験したばかりだから、実感がこもる。ゴディバ ジャパンは、じつは今年、その経営権がトルコの企業から投資ファンドに売却され、新たなスタートを切ったところなのだが、その1年ほど前までは、シュシャン社長は、身売り話などはまったく知らず、数々の次の企画を頭の中でめぐらせていたのだという。

   2018年5月、それらの企画を披露しようと都内のホテルでの会社オーナーの会長らとの会食の席に臨んだが、なんとその場で会社の売却を持ち出された。ゴディバ ジャパンは好調で、前著では5年で2倍だった売り上げは、本書によれば7年間で3倍に拡大。ゴディバの世界の売上の40%を、ゴディバ ジャパンが受け持つ日本などの地域で稼ぎ出していたのだから、会長提案は寝耳に水のショッキングな申し出だった。

   その時点から、シュシャン社長は「売却プロジェクト」を進めるチームの一員に。だが、社長という立場上、発言や行動が売却に影響を与えかねない。ここでも実践したのは弓道の精神。「正射必中(せいしゃひっちゅう)」。弓を構えてから矢を放つまで、8つあるステップを正しく実践すれば、かならず的に当たるという考え方だ。社長として正しいと思えるアプローチで売却を推進。そして理想に近い形で決着できたという。

「働くことを楽しもう。 ゴディバ ジャパン社長の成功術」
ジェローム・シュシャン
徳間書店
税別1500円

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