寝耳に水の身売り話
シュシャン社長は、このVUCA(Volatility=変動性・不安定さ、Uncertainty=不確実性・不確定さ 、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性・不明確さの頭文字をとった言葉)の時代を経験したばかりだから、実感がこもる。ゴディバ ジャパンは、じつは今年、その経営権がトルコの企業から投資ファンドに売却され、新たなスタートを切ったところなのだが、その1年ほど前までは、シュシャン社長は、身売り話などはまったく知らず、数々の次の企画を頭の中でめぐらせていたのだという。
2018年5月、それらの企画を披露しようと都内のホテルでの会社オーナーの会長らとの会食の席に臨んだが、なんとその場で会社の売却を持ち出された。ゴディバ ジャパンは好調で、前著では5年で2倍だった売り上げは、本書によれば7年間で3倍に拡大。ゴディバの世界の売上の40%を、ゴディバ ジャパンが受け持つ日本などの地域で稼ぎ出していたのだから、会長提案は寝耳に水のショッキングな申し出だった。
その時点から、シュシャン社長は「売却プロジェクト」を進めるチームの一員に。だが、社長という立場上、発言や行動が売却に影響を与えかねない。ここでも実践したのは弓道の精神。「正射必中(せいしゃひっちゅう)」。弓を構えてから矢を放つまで、8つあるステップを正しく実践すれば、かならず的に当たるという考え方だ。社長として正しいと思えるアプローチで売却を推進。そして理想に近い形で決着できたという。
「働くことを楽しもう。 ゴディバ ジャパン社長の成功術」
ジェローム・シュシャン
徳間書店
税別1500円