保険料率の「格差」で金融機関の信用力がわかるかも......
それでも、可変料率が導入されなかったのには、大きな理由がある。
「保険料に格差が付けば、高い保険料を支払っている金融機関の経営が危ないということになる」(信金幹部)との懸念があるためだ。「可変料率は、預金保険機構による金融機関の格付のようなもの。高い保険料率になったことがわかれば、金融機関の信用度は大きく毀損する」(信組幹部)。そのことに、中小金融機関が強い拒否反応を示しているわけだ。
ところが、金融庁はこれを逆手に取って、金融機関の健全性に応じて、預金保険料率を引き下げることをインセンティブとして利用することを検討する方針を打ち出した。
この他にも、金融庁はいくつかの行政政策の変更を打ち出している。たとえば、銀行の企業への出資に対する「5%ルール」の緩和だ。銀行は企業経営への影響力を制限するため、現在、企業への出資にあたっては議決権の5%までしか出資できないという制限がある。
この制限について、「地域企業の生産性向上等に向けた金融機関の取り組みをサポートするため、地域活性化や事業承継等を円滑に実施するための議決権保有制限(5%ルール)の緩和や、地域商社への5%超の出資を可能にする」ことも打ち出している。
さらに、地域経済への影響、寡占状態の回避、顧客による複数の選択肢を可能とするなどの理由により、地域で大きなシェアを持つことになる地銀の経営統合については、これまでは独占禁止法により歯止めがかかっていたが、独占禁止法の特例法により、地銀の経営統合を容易にする方針も打ち出した。
また、一方では経営トップから役員、本部職員、支店長、営業職員から社外取締役まで金融庁との深度ある対話を行うことで、地銀に対して「持続可能なビジネスモデル」を強く求めるとともに、経営内容に対する「早期警戒制度」を活用することも打ち出し、厳しい監督姿勢を明確にしている。
預金保険料の可変料率の導入を、金融庁が示したように「インセンティブ」と受けとめられるのか、それとも「格付」と恐れるのか。地銀の経営改革は土俵際まで追い詰められている。(鷲尾香一)